連載

酒粕を活かした「飲む粕酢」で、発酵食文化をもっと身近に

地域の美と健康が動き出した【第58回】(愛知県)

みりん粕で漬けたお魚定食(鈴波)。メニューの中で飲む粕酢を提供している。

老舗漬物店が考案した「飲むお酢」、みなさんには想像がつくだろうか?明治4年の創業以来、愛知県の伝統野菜「守口大根」を漬け込んだ看板商品「守口漬」を製造する株式会社大和屋守口漬総本家(愛知県名古屋市)の特徴は「漬ける」技術。その材料となる酒粕、みりん粕を活用した新たなブランド「八幸八(はっこうや)」を立ち上げ、商品開発を進めてきた。

きっかけは食後のお口直し。大和屋では、自店の「漬ける」技術を活かし、魚のみりん漬けを提供するお食事処「鈴波」(株式会社鈴波)も展開している。梅酒の代わりとなる食後のお口直しを…と思案していたところ、粕酢の活用を思いついた。同社特製の三年熟成させた酒粕を、知多半島の老舗酢店でゆっくり発酵させて完成した粕酢。果汁をバランスよく合わせることで「飲む粕酢」が誕生した。食事に来られたお客様に提供したところ、「美味しい!自宅でも飲みたい!」との声を受け商品化。オリジナルの梅味に加えて、今年は新作の檸檬味を発表した。酒粕から作られているため、アミノ酸が豊富でうま味が多いのが特徴だ。

大和屋の看板商品守口漬

日本の食文化では昔から味噌、酢、日本酒、納豆、漬物などの発酵食品が身近にあったが、広く若者世代にもアピールしようと、中小機構中部本部が主催する販売会に参加したのは、令和3年2月のこと。栄にある同社本店からほど近い「LACHIC」(名古屋三越が運営し、次世代の「モノ」「コト」「情報」に満ちた都会生活シーンを演出する商業施設)で、「飲む粕酢」を初めて販売した。緊急事態宣言下ではあったものの、「守口漬」ファンとはまた違った新たな客層との出会いの場になった。

昔も今も変わらず「美味しいもの」を届けようと工夫を重ねる大和屋守口漬総本家。その美味しさの基礎にあるのが、手間を惜しまない粕であり、漬ける技術だ。多様化する嗜好やライフスタイルに対応し、これからも老若男女が楽しめる発酵食品を提案していく。

(八幸八:https://www.moriguchizuke.co.jp/)

(独)中小機構中部本部 地域・連携支援課主任

中国 由理亜

中小・小規模事業者の事業継続力強化や事業承継の円滑化支援に携わる。同社の「飲む粕酢」は新事業創出支援を通じて知り合った目下一押しの一品。

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