【話題の人】
慶応義塾大学薬学部教授 水島 徹 氏
入浴で体を温めることで免疫力を上げる美容・健康法の中で注目された「ヒート・ショック・プロテイン(HSP)」。「他のタンパク質のお世話」と「細胞をストレスに強くする」働きをする重要なタンパク質だという。20 年にわたり研究に携わる慶応義塾大学薬学部教授水島氏に、その可能性について話を聞いた。
HSPの研究について
私は、HSP に関わって、もう20 年になります。学生時代に大腸菌でストレスの研究をしていましたが、HSP に出会ってからは研究室を持って医薬品分野への応用研究に取り組むようになりました。29歳の頃です。その後、36 歳で熊本大学へ移り、その頃から化粧品分野にも携わるようになりました。
HSP は、基礎研究が非常に進んでいて、既に、変性したタンパク質を元に戻したり、分解することが分っています。私は、「ではいったいどのような病気に良いのかを、応用で研究しよう」と考えました。胃の細胞をストレスから守るセルベックス(エーザイ)という薬がHSP を増やすという発表がされた直後だったので、まず「実際に証明しよう」と。その後、タンパク質変性から起こるアルツハイマー病の場合について研究を進めました。これまでアルツハイマー病は対処療法しかありませんでしたが、HSP を増やすことで効果があることをセルベックスで証明できました。昨年論文でも発表しています。
化粧品では、09 年からの研究でメラニンの産生を抑える抗シミ効果があることが分ってきました。翌年ついに紫外線対策にHSP を増やす生薬ヤバツイを見つけ、世界で初めての化粧品を開発しました。その後マウスを42 度のお湯に5 分間浸け紫外線を照射する10週間試験では、HSP がシワに対しても有効であることが分りました。
つまり、HSP には、細胞をストレスに強くする力が有るのです。例えば、ストレスはタンパク質にダメージを与えますが、あらかじめ弱いストレスで慣れていると強くすることが出来ます。肌はストレスによって強くなるのです。日本人の肌が強いのは、入浴習慣からHSPが関係しているのではと考えられます。42 度のお湯風呂に入って5 分。その6時間後に一番HSP が増えるといわれています。温泉の業界にとっても泉質だけでなくこうしたアプローチもありますね。
これからのアンチエイジングの考え方は大きく変っていくように思います。人間は40 ~ 50 歳まではほとんど歳を取らないとも言えますよね。アレコレと新たなアプローチをするより、元々持っている自然治癒や自己回復力に働きかける考え方がこれからのアンチエイジングの主流になるように思います。
今後はどのような研究を?
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