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温泉をもっと活用した健康の街づくりを

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NPO法人健康保養ネットワーク 会長/健康保養地医学研究所 代表/北海道大学名誉教授 (医学博士) 阿岸 祐幸氏
 6月中旬からドイツ、オーストリア、ブルガリア、ルーマニアと約3週間にわたり、温泉保養地や新しい自然療法施設を視察、帰国したばかりの阿岸先生に話を聞いた。いま、欧州のウエルネスやメディカルウエルネスの現場はどう変わっているのか注目が集まっている。


欧州視察で目についた施設は?
 6月16日に出発して、ドイツ、オーストリア、ブルガリア、ルーマニアと約3週間周りました。温泉保養地や新しい自然療法施設を訪れ、ウエルネスやメディカルウエルネスがどう変わっているかを観てきました。
 ルーマニアの黒海沿岸などでは泥浴を体感しました。黒海でのタラソテラピーは、タラソと泥浴の融合です。
 また、岩塩を見事に健康づくりに活用している施設もあります。何百年も岩塩を採っている巨大な洞窟で、世界遺産になっています。入口から2km位奥に、大きな坑道みたいなものがあって、エレベーターで昇り降りします。
 その中にある施設では、バレーボールや、テニスなどのアクティビティが出来るスペースや、レクチャー、リラックスのフロアもあります。温度が14~16度で一定に保たれホコリや花粉がないクリーンな空間です。そこで、家族やグループで1日中過ごし遊べる。医療面では慢性の呼吸器疾患、花粉症、ぜん息などに良いのです。いわば洞窟療法です。
 そもそもヨーロッパは岩塩が多いエリアです。オーストリアのザルツブルグのザルツは塩(salt)という意味。昔、アルプスは海の底だったといいます。紀元前2000年頃、ケルト人は塩を採って重要な財源にしたといいます。それを今は、健康づくりに活用しています。チェコとポーランドの温泉場にも、必ず塩の部屋があります。
欧州と日本との、温泉保養地の違いは?
 私は1970年代からずっと定点観測しています。何も無かった村が、若い人が温泉を活用したウエルネスやメディカルの保養地で発展させようと20~30年かけてグランドデザインをしています。行くたびに少しずつ変化していることに驚かされます。
 独ミュンヘンから100キロ。オーストリアとの国境の近くにバート・フュッシングという街があります。ほとんどゼロからのスタートですが今やバート・フュッシングはヨーロッパ一番の保養地といえるでしょう。民間とバイエルン州政府が一体になって次々と新しい志向の施設を入れています。何もなかったところから、町に産業をつくるため、地域おこしに温泉を活用しようという地元の若者の努力で、大きくなっていきました。健康保険利用でなく、いかに自身のお金を落として頂くか、一日でも長く滞在して頂くか。老人だけでなく、いかに、若い人にきてもらうかの努力をしています。意外に華やか。ウエルネスとメディカルウエルネスとをうまくバランスをとっています。客は、ロシアの富裕層も来るし、イタリアやスロベニア、クロアチアなどからも来ます。一般に年金生活をしている優雅な方々でしょう。
 日本の保養地施設というとクアハウスがあります。1980年代の初め頃に出来ましたが、全くバージョンアップしていません。ヨーロッパではバーデンバーデンのカラカラテルメは40年で5回もリノベーションしているのです。ローマの皇帝の名前が付いているテルメが多いですが第3~5世代に変わってきています。使い方も変わるし施設自体も変わっています。地域の特異性を上手に使い、自然が持っている健康素材を見事に活用しているのです。
 温泉は科学的根拠に乏しいという人もいます。しかし現代の評価方法では、引っ掛からないだけかもしれません。温泉は太古の昔からあって、やっぱり疲れたら温泉に行きたくなります。良さは認めてはいるのですから。もっと細かい微妙な指標であれば何か解る可能性も十分あると思うのです。
 ヨーロッパでは温泉は神が授けてくれた皆の共有の財産だと考えられています。日本人は皆、露天風呂が大好きです。せっかく、全国津々浦々にいろいろな温泉があるのに、もう少し健康づくりのための温泉に目を向けて頂きたいですね。
阿岸 祐幸氏
1961年北海道大学大学院医学研究科修了。専門分野は、温泉気候医学、健康保養地医学、環境生理学、内科学。著書に「温泉と健康」(岩波書店)ほか、今年6月に毎日の入浴方法についてまとめた「入浴の事典」(東京堂出版)が発売。9月に開催されるスパ&ウエルネスジャパン2013では特別講座「独、仏に学ぶ日本型スパツーリズム考」(9/10 15:00〜16:50/聴講料2,000円)の講演を行う。

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