〈インタビュー〉環境省 自然環境局自然環境整備課 温泉地保護利活用推進室 室長 岡野 隆宏 氏
環境省では、古くからの長期滞在し病気を治療した「湯治」に着目し、温泉地を国民のリフレッシュや健康長寿のための場づくりと地方創生、観光立国を推進するため、温泉地の役割を見直す「新・湯治」を2018 年から推進している。効果の把握、プログラムの提供、温泉地の環境づくりなどに取り組んでいる。
「新・湯治」の活動について
「新・湯治」が立ち上がって今3 年目です。「新・湯治」は周辺の自然に親しみや食べ物を味わい、働くことも含めて温泉プラス何かを加えることでさらに温泉地の魅力や可能性も広げようというものです。展開中の「チーム新・湯治」というネットワークづくりの中で、いろいろな分野の方々が温泉に大きな関心を寄せていただいていることを実感しています。温泉活用について様々な意見や提案をいただいています。今後はメンバー同士が手を組んだプロジェクトが実際に動き出すこともあるでしょう。温泉の効果検証だけでなく、温泉に関わる方々の多彩な連携が生まれることを期待しています。
3 年前より全国の温泉地で温泉に入った後の身体や気持ちの変化を主観的に回答いただくアンケート調査を実施しています。この結果をみると、「リフレッシュできた」「ストレスが少なくなった」など概ね8 割の方が改善したと答えられました。今年度末で約1 万の回答を得られますので、温泉のリフレッシュ効果の裏付けとして広く発信していこうと考えています。
アンケートでは、温泉に入ってリフレッシュするだけでなく、山歩きなど何かアクティビティをしたほうが食欲や睡眠などに効果が高くなるという結果が出ています。
今年度は温泉地と医療機関等が連携して実際の効果を検証する事業を加賀温泉郷、鳴子温泉郷、下呂温泉、温泉津温泉の4 か所で実施しています。健康に直接関わるものもあればワーケーションでの仕事の効率を見るもの、エコツアー体験と温泉の組み合わせの満足度を測るものもあります。今後は、健康効果に繋がる地域の食材の組み合わせや様々
なアクティビティとの組み合わせの効果を追求してみたいと考えています。
Withコロナ、Afterコロナ時代の取り組みは?
「新たな日常」という言葉がつかわれていますが、働き方や暮らし方を変わり健康意識が高まる中で、温泉の持つ力を活用することが大切だと考えています。
ここで注目したいのが「ワーケーション」です。普通に働いていると1 週間以上の休みを取って温泉に行くというのはなかなか難しいものですが、昼間は仕事し、朝・夕は温泉に入ったり、適度な運動をしたりして、栄養やカロリーを考えた食事を食べる。まさに「新・湯治」です。
環境省では持続可能な社会に向けて、地域の資源を生かした自立分散型社会への移行を目指しています。地域が特性を生かして強みを発揮し持っている資源を循環させて自立しつつ、特性に応じて支えあう社会を作っていくことです。温泉はとても重要な地域資源です。温泉熱によるエネルギーの地産地消、食の地産地消、自然体験を組み合わせて温泉地を休養、療養の場で使っていく。これがワーケーションなどで長期滞在化すれば、利益が地域にも回って、健康や癒しを都市に供給することでさらに人が交流する関係性を作ることができるのです。
国際的な行き来が止まった今こそ、国内の可能性をもう一回見直すことは、大事ですし、まだまだ良いものが発見できると思います。身近な温泉に足を運んで、地域の物を食べ新しい体験をし、場合によってはそこで働くことにも繋がっていくでしょう。地域の自然や人の中で時を過ごすことで精神的にも豊かになりストレスの減少にもなるでしょう。温泉がそんな体験の場として見直されるとよいですね。
ワーケーションでの温泉地活用の期待について
本来の「ワーケーション」は個人が休みの合間に「チョット仕事をする」、「どうしても外せない会議がある」とかで、その時間だけ仕事をしますというものでした。ところがワーケンションへの期待が大きく多彩になってきています。
例えば「地域の中で他業種交流」をやって、ここで自分のビジネスの課題を見つけ人との繋がりを作っていくとか。また、出張と休暇を組み合わせた「ブリージャー」は、個人と会社、レジャーとビジネスの真ん中に位置したものです。会社が主導する「オフサイトミーティング」、「チームビルディング」といったものや、「研修/ワークショップ」のような遊びを兼るものも出てきました。
ワーケーションへの期待が高まる中で、どんな「個性」を作るかが、選ばれる温泉地に繋がっていくのでしょう。様々なニーズの受け皿として、地域によって、温泉のタイプや規模によって「個性」を決めていけばいいのだと思います。まずターゲットを絞りながら資源やサービスを磨き直すことからです。そのとき、ワーケーションを仕事の生産性目的だけでなく健康づくりにも繋げていただきたいと思います。
温泉には休養、療養に応える本来の力があることを最大の魅力として、旅先の非日常だけでなく、身近にある半日常の存在として温泉地を活用していくことが、何より肝心だと思います。
おかの たかひろ
環境省自然環境局自然環境整備課温泉地保護利用推進室長。1997年環境庁(現環境省)入庁。主に国立公園、世界自然遺産の保全管理を担当。レンジャーとして阿蘇の草原再生や八重山のサンゴ礁保全に従事。自然の恵みの保全と活用による地域づくりに関心。2020年7月より現職。