経済が「より高く」、「より大きく」、「より速く」を目指したように、「若さ=美」を追い求 めてきた美と健康ビジネスも、経済の減速や自然環境の危機、少子高齢化の下で新し い局面を迎えようとしている。これからの成熟の市場が認める美の価値への転換。 それは、長寿への探求であり、人生の質へのこだわりから生まれる。AIと感性の融合 を研究する慶應義塾大学の桜田一洋氏(※1)は「医療や健康のゴールは個別化。そ れは多くの選択肢の中から自分で自分の最適を選ぶこと」とし、感性の領域にアプ ローチする生成AIが変える美容 やウエルネスサービスを予測する。また、 養生思想を研究する京都大学の西平直氏(※2)は、長寿時代の美について、 「表情 、 姿勢 、所作 、仕草の美しさは内側から来る。内側から滲み出る、香り立つ品格の ある美」と考える。自分と向き合い、栄養・運動・休養で自分を内側からケアすることは、 貝原益軒(※3)によって広められた「養生」(※4)に通じるという。これからの美と健 康ビジネスは、成熟市場のニーズが多様化する中で、一層価値を増す「個別化」と 日本の伝統の健康法「養生」行動の中から生まれてくるように思う。それを後押しす るのは、「AIの進化」と先人が重んじた「品格の美」への意識だ。
※1 桜田一洋 慶應義塾大学医学部 医学研究科 拡張知能医学講座 教授。著書に『亜種の起源 苦しみは波のように』(幻冬舎)。
※2 西平直 上智大学グリーフケア研究所特任教授・副所長 京都大学名誉教授。著書に『養生の思想』(春秋社)など。
※3 貝原益軒 江戸時代の本草学者、儒学者。健康長寿の心得を著した『養生訓』の著者。
※4 自らの体験に基づく精神的修養と自然療法による健康法。身体と心をいたわる知恵のこと
(「DIET&BEAUTY」新春号<2024年>抜粋)