【美と健康の仕掛け人に聞く】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱ コンサルティング・国際事業本部 東京本部
マーケット調査室 チーフコンサルタント 経営学修士(MBA) 中小企業診断士
高橋千枝子氏
ダイエット市場に関する書籍を出版した高橋千枝子氏は、物質的に充たされ、情報にあふれている現代社会の中で、ダイエットニーズが細分化していると指摘する。ここ数年のダイエット市場の変化について伺った。
ダイエット市場の変化は?
ダイエットビジネスの主なターゲットは、常に痩せ願望を持ち、ダイエット食品やサプリメントを購入する20〜30代の若い女性とされてきました。ところが、消費者調査を行った結果、ビジネス対象となる消費者は一括りにできず、細分化していました。
一つは、対象年齢、性別が広がりました。何歳になっても美しくいたいと、アンチエイジング目的でダイエットに励む中高年の女性は、いまや珍しくありません。また、2008年に特定検診が始まったことで、メタボを気にする男性が増え、トクホ飲料が大ヒットしました。最近では女性のように見た目を気にしてダイエットする男性も少なくありません。
また、痩せる方法にも幅があります。男性では、ランニングをして、データを管理し、仕事の成績を上げるようにダイエットに打ち込む人がいます。女性では、食事や睡眠に気を使い、適度にヨガをするといったライフスタイルで無理なく自然に痩せたい人がいます。一方で、痩身エステに通うなど、誰かの手を借りなければ痩せられない人もまだまだいる。同じ“ダイエット”でも、一言で言い表せないのです。こうなると、商品は自ずと多品種になり、それぞれのビジネス規模は小さくなります。しかし、市場全体を見ると確実に拡大しています。医薬品を除いて、ダイエット食品やサプリメントだけでも数千億円規模の市場と予想されます。
ヒットに必要な事は?
市場が細分化した要因の一つは、日本人の“成熟化”でしょう。モノもサービスも行きわたり、情報はネットやスマホから常に入ってきます。消費者は自分の体質やライフスタイル、価値観にあったものでないとお金を払わなくなっています。これは、ダイエットに限った事ではありません。
当然、市場全体を捉え、幅広い層に向けた展開が難しくなってきます。しばしば、ダイエット商材を扱う企業が、リピートや囲い込みのためのwebサイトを設けますが、なかなかうまくいきません。これは、単にターゲットのニーズと合致していないからです。
ダイエットに関して、他人の介入を好む人と、嫌う人がいます。ドラッグストアなど、セルフのチャネルで商品を購入する層は、介入を望まない人が多い。そのような人に対し、付加価値を高めようとネットや電話を使った個別相談のようなサービスを充実させても意味がないのです。
世界一の肥満大国であるアメリカは、10kg以上の減量が必要なケースが多く、カウンセリングサービスが発達しました。一方、日本はOECD(経済協力開発機構)34カ国の中で最も痩せ型体型が多い国です。日本のダイエットビジネスを支えているのは、そこまで切迫していない3〜5キロの増量と減量を繰り返している人たちです。アメリカ発のダイエットがそのまま日本で流行ることは難しいでしょう。
今後の展望は?
企業側としては、今まで以上にターゲットを明確に絞り込み、サービスや商品を提供してくことです。特定のターゲットに深く関わることで何度もリピートするロイヤルカスタマーになります。
これからは、社会や人口動態の変化に対応したビジネスが次々と生まれてくるでしょう。
一つは高齢者のダイエットです。ダイエットには、足腰が弱くなるリスクがあります。健康面の安全性を担保しつつ痩せさせることができれば非常に大きな市場になるでしょう。
また、所得格差がさらに広がるといわれていますが、国民健康・栄養調査を見ると、所得と肥満率は反比例しますから、所得水準が低い人ほど太っていることが分かっています。だとすると、この層に合う価格帯や品質の商品を検討する必要があります。
これらの市場は、まだ成熟していませんから、さらなるダイエットビジネスのチャンスが期待されます。
高橋千枝子氏
消費財・サービス分野のマーケティングリサーチや事業・ブランド戦略、M&A支援、事業化支援に従事し、特にヘルス&ビューティケア分野を得意とする。著書に『高くても売れる!7つの法則』(ダイヤモンド社)、『肥満解消』マーケティング』(日本経済新聞出版社)、『図解 健康業界ハンドブック』(東洋経済新報社)等。