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魂に響く音の演出

スパ生き残り戦争に勝つために(空間づくり編) 第2回
取材・文/ライター 大崎百紀
 スパやエステサロンで大切な「空間づくり」。名の通ったスパでは、著名な空間演プロデューサーやデザイナーを起用し、彼らのエッセンスを散りばめているようです。
 もはやスパは、体や心の緊張をほぐすためだけの場ではなく「空間」を楽しむ場であるというのは周知の通り。でも…本当に癒される空間というのは、デザインが優れているだけではないようです。


 私がこれまで訪れたスパの中で最も感動したスパベスト5に入るのが、アメリカL.A.のラグジュアリーホテルの中にあったスパ。もう7、8年近く前のことなので、そこでどんなコースを受け、どんな商材だったのかも実は全く覚えていませんが、スパのあるフロアに降りたった瞬間、目の前に広がるキャンドルの廊下に感動し、一歩一歩キャンドルの灯に出迎えられながらレセプションまで進んだあの感激の歩みは今でも心に鮮明に残っています。
 おそらく今行ったら、それほど感動しないかもしれません(日本のスパもキャンドル使いが上手になったからです)。あの時期、あの時間、あの場所だったからこそあれほどの感動があったのだと思うと、スパの空間での癒しって一方通行なものではなく、演出する側と、受け取る側のニーズが一体化した時に最も「成功」するのでは、と思います。
 心が傷ついている時にふと視界に入る海がとっても優しいように。もちろんそこまでドラマティックな演出をする必要はないかもしれません。でも今回この記事を書くにあたって私がこれまで(空間において)「何に感動したのか」をじっくり考えてみたところ、香りよりも「音」、そして全体というより「ある一部」の空間でした。
 つまり、こういうことです。たとえスパ空間の全体図は覚えていなくても、「音」によって心が動いた瞬間には、その一部が映像の中から切り取られた一枚の写真のように、鮮明に記憶されているというものなのです(私の場合)。
 たとえば数年前の豪州熱帯雨林地域にあるスパでの体験談。極上のトリートメントの後にバスローブのまま、案内されたほの暗いスペースの一角。そこで頂いたレモンマートルティの味や香りより、さりげなく耳に届いたディデュリデュの音楽のほうが記憶に残っています。
 ハワイ・ホノルルのスパでは、かけられていたメロウな音楽CDがとても良かったので、トリートメント後にセラピストからタイトルを教えて貰い、現地で購入したことがあります。ハワイアンに飽きていた私には新鮮な音でした。ハワイに行くたびに思い出すあの曲。あのトリートメントルームで耳にしたあの曲。
 
 また、豪州パームコーブのアンサナスパで、屋外のプール付きの個室キャビンでトリートメントを受けた時、最後にベルが静かに長く響くように鳴り、一瞬にして魂が洗われるような感覚になり、波と風の音の中で、至福の時間を味わったものでした。
 無意識に、心地よさを感じているそういう時こそ、音の演出によるところが大きいのです。そう考えるに、あのL.A.のキャンドルの灯の廊下が最高だったスパ。きっとあの瞬間、静かに音楽がどこからか流れていて、私は無意識にそれによって、極上の気分を味わっていたのだと思います。思い出せないのが悔しいのですが。

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