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富士山麓のリトリートで 「感動」や「気づき」を(朝霧高原診療所院長/WELLNESS UNION(富士山静養園・日月倶楽部)代表 山本 竜隆 氏)

 富士山麓の2万坪の自然の中で地域医療と滞在施設によって健康増進の統合医療が実践されている。院長であり事業の代表である山本竜隆先生は、かつて訪れたヨーロッパの田舎町の医療にそのモデルを見たという。「日本では田舎と言えば医療過疎、ところがヨーロッパでは地域医療の姿がしっかりとあった」。都市生活者のリトリートの大切さと受け皿として地域への期待を聞いた。

統合医療へのきっかけは?

子供のころ怪我で整形外科に行っても 治らず鍼や整体で良くなった経験がありま した。なぜ、両方の治療を一辺に受けら れないのかと不思議でなりませんでした。 大学卒業の頃には、内科系で現代西洋 医学だけではなく鍼や整体や自然療法も やる、もっと生活者に寄った広い意味の 医療をやりたいと考えるようになりました。

大きな転機は、統合医療の権威アンド ルー・ワイル博士の本「癒す心、治る力」 (※)との出会いでしょう。米国には統合 医療というのがあって、世界から医者を 募集しているらしいと知ったのです。米国では全ての医学生に統合医療を教え ていました。驚いてさっそくそのアリゾナ 大のプログラムへの参加を決めたので す。2000 年~ 02 年のプログラムで、ア ジアで最初の卒業生となりました。博士 からは、「統合医療は実学。研究でなく 実践」であることを教えられました。  帰国した私は、正に実践の場として東 京の四谷で「統合医療ビレッジ」を始め たのです。日本で統合医療という言葉がまだ珍しかった頃です。様々なメディアにも注目され全国から多くの患者が集まるク リニックとなりました。しかしそこには私が 目指した健康増進のための統合医療や 地域医療の要素はありませんでした。

そんな時ワイル博士のアドバイスで 行ったドイツやイタリアの田舎町での医療の現場は、正に目から鱗の経験でした。そこで見たヨーロッパの田舎の医療ビジ ネスモデルが、私の描いていたイメージ にピッタリだったのです。日本に戻ってす ぐに、実現の場を求めて2005 年に朝霧高原の約2万坪の水源の山を見つけま した。ここなら世界にも通用する自然を活かした滞在型で健康増進の統合医療が実践できると確信しました。広さや標高、湧水、樹林構成もヨーロッパで学んだ条件を全てクリアしていました。

朝霧高原の施設について?

地域医療と、自然を活かした滞在施設との、両輪のビジネスモデルです。3 年後に「朝霧高原診療所」をつくり、そこ から4年で滞在施設の「富士山静養園」 を、更に3年後に「日月倶楽部」をつくり上げました。2015 年のことです。

この間、朝霧高原への移住者も増えてきました。ここに診療所があるからと決めた人もいます。診療所はライフラインの意味合いがあって地域を元気にしま す。廃校になると言われていた小学校や保育園が、今は息を吹き返したように児童数を増やしています。結果的に地域活性にも繋がったのです。

お客様はとにかく自然の中で富士山と向き合ってのんびり過ごしたいという方々です。能舞台のあるテラスでワインを飲みながらゆったりと富士山を眺めて過す方もいます。2 万坪の中に限定 7 組ですから本当の静寂です。週末ごとの貸し切り制で、テーマはクラフトジン蒸留、企業研修、各種マインドフルネスと多彩です。それによってオプションプログラムや料理の内容も違ってきます。参加者の年代や所得層はまちまちですが、同じテー マや目的で集まって来ると互いのコミュニケーションもシックリいくように思います。 200 年前の古民家を移築して、昔の蔵を風呂に使っています。ラグジュアリーとは程遠い施設環境ですがここの強みは、 やっぱり自然があって、東洋医学的な要 素があること。あとは自給でしょう。自給 率を高める色々な試みもしています。こんなことに魅力や価値を見出す、若い人が増えているように感じています。最近は、ホメオパシーや漢方薬やハーブを希望する人も随分多くなったように思います。

今後の取り組みは?

地方には後継者がいない病院、後継 ぎのいない農家は沢山あります。古い旅 館も同様です。これらは単独だとやっていけないかもしれませんが、例えば、診 療所をやりながら、滞在施設もやって、畑でオーガニック系のものを作るというユ ニットができたなら状況は変わってきます。リトリート提供の場になるのです。リトリー トの目的は、実は癒しだけでなくて、食べていく、生きる術を学べることです。自分たちで薪を作れて暖を取れる、ご飯を炊けるといったことが大切です。私は、リトリートを目指す施設は一次予防としての 行動変容とか気づきのために、どれだけ 介入できるかが重要だと考えています。どう感動したか、生き方を見つめ直した かなのです。「静養して心身や思考をリ セットするきっかけの場」「養生と充電の 場」です。一方でそのための受け皿とな れる地域のユニットをつくることが、地方 創生にもつながってくと思うのです。

地域にとっての差別化ポイントは実は そこに住んでいる人たちが一番知っているはずです。おじいちゃんやおばあちゃんから教わった事柄の中に大きなヒントがあります。あの山にはこういう神話が、そこのお地蔵様にはこんな意味が。日本の 田舎には自然と人の暮らしとの関わりがとても豊富なのです。

また、これからの医療において「社会的処方」が注目されていくでしょう。カナ ダでは抗うつ剤を使う代わりに、「年に50回モントリオール美術館に行ってください」と心療内科医が処方します。地域 や自然に接することも処方の一つでしょう。これからも、薬がどうやってもなしえない課題領域に取り組んでいきたいと考えています。

※1996年「癒す心、治る力」アンドルー・ワイル著  世界的ベストセラーにして医学の革命書

やまもと たつたか

医師・医学博士 朝霧高原診療所 院長WELLNESS UNION(富士山静養園・日月倶楽部)代表/昭和大学 医学部客員教授・聖マリアンナ医科大学非常勤講師、 『リトリート 日本人のための「新疎開」のすすめ』(23 年11月発刊)他著書多数

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