今、あらためて日本の「ホスピタリティ」が世界から注目されている。また国内のBeautyビジネスの 世界でも利他的CSRに取り組む企業が高い評価を得ている。未来の美容業界を担うべく、美にかかわ るビジネスを創出できる人材育成をする山野美容技術短期大学の河﨑峰子氏に、日本人のおもてなし、 美とビジネスの関係について聞いた。
人が生きて行くうえでの美しさとは?
山野美容芸術短期大学では、人や社 会を幸せにする「美道」を探求し、自分らしさを持ちながら「美しく生きる力」を 身に着けていただきたいと考えています。 私は日本航空の客室乗務員として25年間勤務し、人材育成・教育担当として安全、サービス品質向上、顧客満足、マネージメントなどの指導で培った知識・ 経験を活かして、ホスピタリティー論、キャリアデザイン論、異文化間コミュニケーション論を担当しています。お客様やスタッフなど人のためにやれることが自分のやりがいに繋がること、諸外国の方達とのコミュニケーションの楽しさ、自分が成長することによって人の役に立つ「精神美」などを伝え、学生達の自己実現のお手伝いをしています。
ビューティーは人生において必要な要素だと思っていますが、人が生きて行くうえで美しさとは一体なんだろう?と考えた時、生き様だと思うのです。その人の美学であったり、美意識だったり、そういったところも影響してくると思います。ある女優さんの言葉ですが、「自分のシワ 1 本も喜怒哀楽が刻まれてきた人生の中でのシワだから、それを消すことは自分にとっては自分の生き様を消すようなこと」と。高齢になってもシワ一つが生き様だったり、生きるプロセスみたいなものとして意味があるのだと思い、心が温まりました。
私はホスピタリティと同時に経営管理学出身としてキャリアを専門としていますが、 キャリア=職業ではなく自己実現だと思っています。自己実現とは、こんな職業に就きたい!ではありません。職業は方法論 です。「なりたい自分」になるための自分 のプロセス、美道の道。高齢になった時でも人生半ば、自分はまだまだ仕上がっていないよと思えるような。道は未完ですが、私達は未完の美を追求し、なりたい 自分になるためにそのプロセスをどう歩ん でいくかということが大切だと考えます。
西洋では結果が求められ重要視されますが、日本はプロセス(道)を大切に思う気持ちがあり、そこには謙虚さがあり、日本人独特の奥ゆかしさがあります。それらも「美しさ」に入るのではないでしょうか。
「おもてなし」と「ホスピタリティ」 の違いは?
「おもてなし」というのは、表も裏もない心の様を、見える化に直結することだと思います。これは対人に値するところが多く、いわゆる人に対してホスピタリティある行動を取ることが「おもてなし」と捉えているのではないでしょうか。一方で「ホ スピタリティ」は人だけでなく、環境、会社など広域な場面において、利己的ではなく、利他的に動けることがホスピタリティだと個人的に思っています。
日本人は人に対してもモノに対しても、心遣い、気遣いができる人種です。言葉にしなくても「阿吽の呼吸」といわれるように、ハイコンテクスト文化の人種です。ホスピタリティが何なのかがわかっていなくても既に行動していて、後々それが ホスピタリティなのかなと感じているのだと 思います。人に対する心遣い、気遣いだけでなく、街や自然に対しても。モノに 対しても。リユースとかリサイクルなども、 地球環境に対してのホスピタリティかもしれません。モノに対しても一つの物を大事に使う、丁寧に使うことも、それを作っ た人に対しての感謝の気持ちを持って大事に使うというような日本人の精神は、 脈々と昔から受け継がれていたものなのだと思います。それが言葉として表現されていなかった、理解されていなかっただけなのではないでしょうか。
ビューティービジネスについて
精神美は対人だけではなくて、本当に 大きな括りで利他的な振る舞いができるということですが、ビジネスの世界で利他的って何だろうと考えた時に、やはり 今企業が取りざたされている CSR 活動があり、SDGs や地球環境問題など様々な問題があります。美容業界、美に関わる業界が、そこに意識を高く持っていくことが、これからのビジネスの中では重要 ではないかと考えました。
企業の皆さまが登壇していただいている章もあり、企業ではこんなことを考えているんだなど理解していただけると、若者の今後の参考にもなると思っています。 この本を介して Beauty をビジネスとする 美容業界に興味のある方が、美容というツールを使って、いかに社会に貢献できるか。正に高齢化もそうですし、地球環境もそうです。新たな価値創造を見つけ て、世の中を変えていっていただければ 嬉しく思います。
かわさき みねこ
山野美容芸術短期大学 教 授。日本航空客室乗務員と して25年間国際線、国内 線に乗務。VIP対応やサー ビス責任者として顧客満 足、品質向上に務め、多く の社員、新人、外国人等の 教育を行い、乗務を通じて 人材開発に従事。退職後は ビジネスホテルの人材育成 を経て、キャリアカウンセラーとして区役所にて生活困 窮者の相談業務を担当。著書に「入門ビューティビジネ ス」(新井卓二共著)がある。