ヘスペリジン研究会の第10回研究発表会が、12月3日に都内で開催された。
はじめに、ヘスペリジン研究会 会長の山下静也氏が挨拶。今回が10回の記念大会にあたり、10年で研究会参加者も増え、以前は認知度の低かったヘスペリジンに関しても、今は消費者間での認知度も向上した、と語った。
第1部は柑橘シンポシウム。地域の柑橘類に関する話題で、徳島県、宮崎県、神奈川県の各県の担当者が柑橘類のブランド化などについて発表した。
○徳島県 徳島が全国の98%以上生産する「スダチ」について、消費拡大への働きかけや、三倍体の新品種(さなみどり、ニューすだち、阿波すず香)について紹介。
○宮崎県 日向夏ときんかんに関する取り組み。日向夏の中果皮(白皮部分)は甘味があって苦味がなく食べることができるため、リンゴのように向いて食べることを推奨。この食べ方が普及しておらず、まずは名前と食べ方を広めるという課題を持つ。一方、加工食品としては地域色も出せるため商品化しやすいという。きんかんでは、完熟きんかん「たまたま」を紹介。生で皮まで食べられる品種で、その知名度アップのための取組みを紹介。来年1月15日より「たまたま」を栄養機能食品(ビタミンC、E)として販売する予定だという。
○神奈川県 湘南ゴールドは生産量が少なく、生果が1ヶ月しか出てこないが、加工食品にPRしていること、また搾汁残差をムラサキウニのエサとすることで実入りの良いウニができることを紹介した。
第2部では機能性研究の発表が行われた。
○ヘスペリジンの水溶液安定化機構と腸管吸収挙動
松井利郎氏(九州大学大学院農学研究院 食品分析学研究分野 教授)
難溶性で知られるヘスペリジンは、重合ポリフェノール(テアシネンシンA)と混合することで溶解性向上の可能性があることを紹介。体内動態については動物試験データを交えて解説した。
○ヘスペレチンの新規抗癌作用:癌細胞と癌幹細胞を標的とした解析
遠藤弘史氏(滋賀県立大学人間文化学部 生活栄養学科 助教)
ヘスペレチンの抗癌作用は知られているが、細胞の中でヘスペレチンが何をして癌が抑制されているのかが分かっていない。演者らの研究では、ヘスペレチンがHsp70(細胞死抑制因子)の発現量を低下させる作用を有し、これが癌細胞の増殖を抑制することを見出した。癌幹細胞においてもヘスペレチンによるHsp70抑制効果が細胞死誘導を引き起こしているのではないかと考えられている。
○眼疾患におけるヘスペリジンの有用性について
前川重人氏(東北大学大学院医学系研究科 眼科学分野 研究員)
緑内障は酸化ストレスとの関連が指摘されている。食品成分から抗酸化作用を示す物質をスクリーニングしたところ、ヘスペリジンの効果が高いことがわかり、動物試験を行った。ヘスペリジンが網膜の神経保護効果を有していることを証明した。
○DSS誘導性大腸炎モデルマウスにおけるユズ果皮の効果
安部博子氏(産業技術総合研究所 健康工学研究部門 主任研究員)
ユズ皮ペーストを大腸炎モデルマウスに投与した試験を紹介。ユズ果皮には大腸炎を緩和する効果があり、またユズ抽出物には強い抗酸化作用がある事が分かっており、ユズ果皮は抗炎症・抗酸化の両方の作用によって大腸炎を緩和することを示唆した。
○糖転移ヘスペリジンとべにふうき緑茶の機能性フードペアリング
立花宏文氏(九州大学大学院農学研究院 食糧化学研究分野 教授)
メチル化カテキンの抗アレルギー作用を増強するような組合せ素材を探索し、たどり着いたのがエリオジクチオール。べにふうき緑茶と糖転移ヘスペリジンの併用効果を検討した試験を紹介した。この2素材は単独では効果が表れなかったが、組み合わせることで抗アレルギー作用が増強され、さらにコレステロール低下作用、癌抑制、筋委縮改善などの効果も確認された。このように機能性効果が高まる組合せ「フードペアリング」という新たな概念を披露した。