――ここでは雑誌に掲載した内容の一部を紹介いたします。
機能性食品開発のための知財戦略(15)
食品用途発明の最新報告〈2018年12月特許公報発行/公開分〉
今号注目の機能性─有効成分の吸収促進に関する用途発明
特許業務法人ユニアス国際特許事務所 パートナー弁理士 春名 真徳
はじめに
本連載では、毎月、①新たに登録される食品用途の成立特許と、②新たに公開される食品用途の公開公報とを、著者が調査・分析して報告を行う。また、汎用性が高く、参考となる請求項や特許明細書の記載形式、権利化手法、知財戦略などがあれば簡潔に紹介を行う。
1.調査の方法
特許請求の範囲に、「…のための食品…、…用食品組成物、…改善剤」などの食品用途発明で頻用される文言を含み、人体に対する機能性に関する用途が規定された特許を抽出する。厳密には特定保健用食品、機能性表示食品にてヘルスクレームとすることができない機能性(用途)や、認可され得ない成分等についても参考となる限り、除外せず掲載している。
原稿執筆時の関係上、本号では、2018 年12月1日〜12月末日までに特許公報の発行又は公開(再公表)された特許案件についての紹介を行う。
成立特許リスト(表1※雑誌に掲載、ここでは割愛)では、早期審査や、情報提供制度の利用状況を確認できるようにしている。情報提供制度とは、簡潔には、特許庁に対して匿名で行える、他社特許の権利化を阻止するための制度である。情報提供回数が多い案件は、それだけ競合他社への影響力が高いことを間接的に示している。
公開公報リスト(表2※同)では、国内出願による公開特許公報だけでなく、日本語でなされた国際出願による「再公表特許公報」も対象に加えた。これにより、国内企業案件の海外への展開も確認することが可能となる。
2.今号注目の機能性
有効成分の吸収促進に関する用途発明
これまでの連載では、脳機能、運動機能等、特定の機能性自体を高める用途発明に着目して、参考になる成立特許等を紹介してきた。本号では、視点を変えて、特定の機能性自体を高める用途発明ではなく、機能性が公知な有効成分の吸収性を高めることに着目した用途発明を権利化することにより、間接的に当該機能性を高めることを訴求し得る事例を紹介したい。
これまでの連載で多く取り上げた、特定の機能性自体を高める用途発明は、以下のような請求項が典型的である。
A成分を含有する、X(用途)向上用組成物。
本号では、A 成分のX用途が公知である場合の、以下のような吸収促進用途発明を検討したい。
B成分を含有する、A成分の吸収促進用組成物。
このような吸収促進用途発明の視点で研究開発を進めることにより、用途発明の権利化を多面的に行うことや、商品アピールに独自性を持たせることに繋がる。
本連載のデータベースから傾向を調べると、吸収促進用途発明の登録数はまだ多くはないが、公開数が増加傾向にある。
商品アピールの観点からは、例えば、(株)えがおの機能性表示食品「えがお め・まもーる」では、商品HPにて、「特許出願中! 独自の組み合わせで吸収率アップ!」、「ルテインにアントシアニンと鮫肝油を組み合わせています。最新の研究で、この組み合わせがルテインの吸収率をアップさせることが分かりました。しっかりと吸収するためのこだわりです。」等のアピールがされている。
このアピールを裏付ける公開公報は以下の通りである。
特開2018-93846 株式会社えがお
【請求項1】ルテイン含有物、又はアントシアニン含有物、又はルテイン含有物とアントシアニン含有物の混合物に、肝油類を懸濁することによりルテイン、及びアントシアニンの腸管吸収量を向上させることを特徴とする腸管吸収量向上用食品組成物。
ルテインやアントシアニンのアイケア等への効果が公知な成分である。これらの成分に肝油類を懸濁させることで、ルテイン及びアントシアニンの腸管吸収量を向上させる点に着目して用途発明の権利化が目指されている。
実施例において、ルテイン及びアントシアニンの腸管吸収量は、ヒト結腸癌由来上皮細胞株Caco-2の細胞内透過量を用いて間接的に測定されている。Caco-2細胞を用いた細胞内透過量を示す機能表示方法は、人における腸管吸収量を示す数値として、医薬品や食品の分野で広く用いられていることが説明されている(段落0043〜段落0044)。ルテイン及びアントシアニンの細胞内透過量は、オリーブ油、大豆油に懸濁した場合に比べ、鮫肝油類に懸濁した場合に最も高かったことが示されている。
―以下、続きは月刊『食品と開発』3月号にてご覧ください。
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