第25回トレハロースシンポジウムが11月2日に都内で開催された(主催 株式会社林原、後援 日本応用糖質科学会)。シンポジウムでは、主催者挨拶に続き、6題の講演が行われた。(以下は要約)
■主催者挨拶
林原 代表取締役社長 安場直樹氏
本年で創業140年となる林原は、来年4月に社名変更し「Nagase Viita(ナガセヴィータ)」となる。2011年の破綻後、2012年にNAGASEグループの一員となり10年が経過した。林原としても新しい未来に向かいたいという思いで社名変更を決断した。これから問題となる地球環境への貢献を考え、サステナブルを体現する会社としたい。
■高濃度トレハロースは線維芽細胞をセネッセンス様状態に誘導して創傷治癒を促進する
愛媛大学 大学院医学系研究科 皮膚科学 講師 武藤 潤氏
従来は製造に時間がかかっていた表皮シートが、トレハロースを使うことで、短時間で大きな表皮シートを作ることができることが分かった。動物試験ではトレハロース含有真皮シートで有意な創傷治癒促進作用を確認。この真皮シートは、高濃度トレハロース処理により線維芽細胞が創傷治癒を促進するセネッセンス様状態へと誘導されることを利用したもので、難治性潰瘍に対する治療に期待が持たれている。
■トレハロースを含有する細胞保存液セルストアの処方設計と評価
(株)大塚製薬工場 研究開発センター 藤田泰毅氏
新規の細胞保存液「セルストア」を設計した。それにはトレハロースが応用されており、トレハロース+デキストランの組み合わせで優れた保存効果があることを確認した。
■多機能保湿剤“イソプレングリコール”とトレハロースの組み合わせによる毛髪補修性
(株)クラレ ケミカル研究開発部 化学品研究開発グループ 荒井孝徳氏
イソプレングリコール(IPG)とトレハロースを組み合わせることで、毛髪疎水化に相乗効果を示し、キューティクルの毛羽立ちを抑える(毛髪ダメージ改善)機能が調べられた。この毛髪ダメージ改善はシリコンと同等だが、IPGは生分解性で環境にも優しい特徴がある。
■Trehalose-based seed coatings to boost agriculture in marginal lands
耕作不適地における農業を可能とするトレハロースを配合した種子コーティング技術
Massachusetts Institute of Technology, Department of Civil and Environmental Engineering, Associate Professor Benedetto Marelli氏
(同時通訳)
トレハロースとシルクを混合したもので種子をコーティングすることで、作物の収量と品質を向上させることができた。モロッコでの圃場試験の様子を紹介。
■放線菌が生産するトレハロース系化合物の化学と生物
富山県立大学生物工学研究センター 教授 五十嵐康弘氏
新たに発見されたトレハロース系の新規化合物を紹介。Polymorphospora属が生産するtrehangelinは抗酸化作用や生活習慣病の改善作用があることが知られていたが、新たに発見されたtrehangelin Eは、種子発芽試験において植物ホルモン様の根伸長活性を示すことが明らかにされた。
■トレハロースの飼料用途開発 ~サステナビリティへの貢献~
(株)林原 フードシステムソリューションズ部門 向井和久氏
近年飼料としての利用が進んでいるトレハロースは、ブロイラーにおいてプレバイオティクスとして働くことが分かった。プレバイオティクスとしてのトレハロースにプロバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクス効果により、ブロイラーの生産性向上や環境負荷低減、持続可能な畜産業への貢献が期待されることを紹介した。