今年の出展社の傾向
今年の出展社の傾向としては、毎年顔を見せる食品素材のグローバルな企業であるDSM、カーギル、ADM、グランビア、ブンゲ、ヴィルド、テイト&ライルなどの大手のほか、アメリカのローカルな中小企業の出展が多かったこと。これは今、アメリカでもトレンドとなっているスペシャリティフーズ(地域の中小企業の製品)やローカル食品(地域食品)台頭の動きとも連動する。
日本企業(現地法人)の出展は、味の素、天野エンザイム、葵製茶、小川香料、キッコーマン、キミカ、三栄源エフ・エフ・アイ、島津製作所、宝酒造、林原、松谷化学工業、ミツカン、三菱インターナショナル(興人、三井農林、宮坂醸造、ヤマサ、理研ビタミン、マルコメ、テーブルマーク、ヤクルト、森永乳業、イーストック(アサヒフードアンドヘルスケアと三井物産の合弁)、森井食品、丸紅など。
出展製品のトレンド
「おいしく食べられる減塩化素材」
ここ数年IFTでも減塩化のための素材提案が目立っていたが、今年は一層素材のバラエティも広がった。
日本企業でも減塩の提案をしている企業は多く、テーブルマークが酵母エキスで“減塩”プラス“MSG代替”を訴求、キッコーマンでは減塩しょうゆを使ったメニュー提案で、ナトリウムを40%以上減らせることを提案、小川香料では減塩しても味を損なわないフレーバーエンハンサーを出品、味の素ではHVPや酵母エキスを使用した製品と対象比較で、減塩してもおいしいハムの試作品を作り提案していた。興人も酵母エキスによる減塩を訴求していた。
その他、オランダのScelta Mushroomsはマッシュルームの濃縮液、粉末で減塩とMSG代替訴求を、ユングブンツラウアー社はグルコン酸カリウムによる減塩を提案していた。
「ダイジェスティブヘルス素材」
「ダイジェスティブヘルス」は胃と腸のための健康のことで、10年のアメリカでの健康訴求ポジションの№1を占めるコンセプト。最も多く使われているのが、食物繊維素材でIFT会場でも大豆、コーン、ライ麦、オーツ麦、えんどう豆、オレンジなど様々な食物繊維素材が出品されていた。目新しいのは、ノースカロナイナのthe Ingredient house社が出品していたバンブーファイバー。
また、「ダイジェスティブヘルス」コンセプトで市場が伸びているのがプロバイオティックス(乳酸菌)。消費者のプロバイオティクスに対する認知度はそう高くないが、「ダイジェスティブヘルス」という機能ジャンルの市場拡大とともに、プロバイオティクス製品も伸びている。オハイオ州のバイオベンチャーGaneden Biotech社の耐熱・耐酸性乳酸菌「Ganeden BC30」は、ベーカリーや飲料など様々な加工食品に添加しても菌が死なないことを訴求しており、加工食品への処方提案をしていた。
「より一層のナチュラルを追求した素材」
ナチュラル志向は以前からあるトレンドであるが、そのナチュラル度が米国の食品市場では一層高まっている。その1つの動きが甘味料のナチュラル化だ。天然の高甘味度甘味料ステビアは、他の代替甘味料より価格的に高いにも関わらず、卓上甘味料としてや飲料、デザート、菓子の甘味料としても利用が広がりつつある。IFTでも3年程前からステビアの出品が目立っていたが、今回も多くの企業がステビアを出品していた。
ステビアは米国の素材メーカーやディーラー、また中国のメーカーが出品していたが、なかでも最近、日本の守田化学工業とライセンス契約を結び、レバウディオサイドAの販売を始めたCorn Products InternationalはReb-Aを大きく掲げた看板で注目を集めていた。また、小川香料はステビアの後味をマスキングするフレーバーエンハンサー「オプティマイザー」を出品、ステビア市場の伸びに伴うフレーバーの提案をしていた。
今回の展示会で、ステビア以上に目を引いたのは4~5社から紹介されていた羅漢果。こちらでは「Monk Fruit」と呼ばれ、ステビアに次ぐ天然の高甘味度甘味料として、大きな期待が感じられブースの装飾にも力が入っていた。同じ天然志向ではローカロリーではないがサトウキビ(ケーン)シュガーも伸びているようだ。カロリーはあっても精製度の低い甘味料ということで人気なようだ。
天然というコンセプトで最も大きな流れは、全粒粉を始めとする精製度の低い穀類の利用。アメリカでは05年の食事ガイドラインで「ホールグレインを中心に食事をしましょう」という推奨がされて以来、全粒の小麦はもちろん、オーツ麦、ライ麦、大麦、コーン、フラックスやチア、キヌアなど南米産の雑穀までベーカリー製品を中心に利用が広がっている。米国のGRAIN MILLERS社では「Whole Glain Solution」と題して、これらホールグレインのオーガニック品をブレンドしたり、様々な形態への加工を提案。Harvest Innovations社は “ホールビーンズグッドネス”という看板を掲げ差別化を図っていた。
「健康的なダイエットをサポートする素材」
最近注目されているのが「Satiety(満腹感) Diet」。バランスのとれた食事をし、満腹感を得ながらダイエットしようというもの。このコンセプトを素材の提案に使っている会社は何社もあったが、そのひとつがレジスタントスターチやイヌリンを紹介していたナショナルスターチだ。消化されにくいレジスタントスターチを使いカロリーを下げ、ローグリセミックで血糖値を上げない、翌日まで満腹感の得られる食品の提案として「ウエイト&グリセミック・マネジメント」のパネルを掲げ、紹介していた。また、スウェーデンのBIO VELOP社はSatiety Diet向けの商品にβ-グルカンリッチなオート麦を利用する提案を行っていた。
松谷化学工業は、難消化性デキストリン「FiberSol 2」を大きく看板に掲げていたが、同社の難消化性デキストリンも血糖値の対応から始まってダイエットサポート、さらにダイジェスティブヘルスと昨今の米国の健康志向のトレンドに乗り、大幅に売上を伸ばしているようだ。応用製品は糖尿病対応のサプリ、繊維強化を目的としたシリアル、ベーカリー、飲料へと広がりつつあるという。最近では、マクドナルドのバンズ(全粒粉使用)にFiberSolが採用されたという。食物繊維の強化とバンズの老化防止が目的のようだ。
IFTにみられる米国食品産業の今後
IFTは米国を始め、海外の有力な食品素材企業が一堂に食品素材の提案をする場として知られ、将来出される製品や機能性のトレンドなど1~2年先の傾向を把握できる。これまでもアメリカにおける大豆食品のブームやローカーボ、ノートランス脂肪酸の食品トレンドと先取りして、この展示会でみることができた。今回の展示会視察を通じて、今後の動きを予測すると次ぎのようなことが挙げられる。
①ナチュラル志向の高まり―アメリカではラベルのシンプル化(なるべく添加物を減らし、構成要素を少なくする)と、製造工程のシンプル化(なるべく食品成分の価値を損なわない製造工程に)が進出。Less Process is More Healthy , Less is the betterを訴求した商品がより増えていくと思われ、それを実現するための素材や技術が求められてくる。
②ホールフーズの復権―穀類、野菜・果実、豆類は、なるべく精製しないホールのまま成分を損なわないよう全体を利用した食品素材の利用が増えてくる。
③よりおいしく、満腹感・満足感を与えるダイエット食品のニーズ拡大―カプセル・錠剤やプロテインドリンクだけ飲むといったものでなく、バランスよく食べながら満腹感を得られ、自然と食事量が落とせるダイエット食品素材が求められる。
④AGING Well食品の増加―今回の展示会ではパネルで高齢者用と書かれたものはひとつも見なかったが、現在注目されている「良質のたん白素材」は活動的なシニアをイメージした食品に提案されることが多い。アメリカでも面と向かってシルバー用といった食品は成功していないが、AGING Wellのようなポジティブな表現で訴求した筋たん白を意識した食品や骨を意識した食品は伸びが予想され、そのためのたん白、VD3、Ca、グルコサミン、その他の素材のニーズは広がりそうだ。