第22回トレハロースシンポジウム(主催:林原)が11月9日に都内で、150名の識者・関係者を集めて開催された。
シンポジウムの詳細は⇒ https://www.hayashibara.co.jp/data/1673/news_tp/
まず林原の代表取締役社長 安場直樹氏が挨拶。シンポジウムは第22回を迎え、応用分野が食品、化粧品、医薬品、農業などへ広がりを見せており、手ごたえを感じている。海外にも広めたい考えで、今回はワシントン大学から講師を呼んでいる。将来的に国際シンポジウムにしていきたい、と語った。
●第1部「トレハロースと生命、食糧、環境」
香川大学農学部の藤田政之氏は、塩や重金属に関するイネのストレス耐性にトレハロースが有効であることを紹介。塩害や重金属などの環境ストレスでイネ内に活性酸素が生まれて酸化ストレスとなる。DNAやタンパク質が損傷し、細胞死に繋がる。しかし、トレハロースでイネを処理することで耐性が強化し、ネガティブな影響が改善されることが示唆されたという。また、イネなどトレハロース非蓄積植物においても、トレハロースを外から加えることで植物保護剤として期待できると語った。
微生物科学研究会 微生物科学研究所の和田俊一氏は、新規物質「レンツトレハロース」を紹介。マウスの試験で、レンツトレハロースは抗腫瘍作用、骨強化、抗肥満作用についてはトレハロースの数倍の活性が、オートファジー誘導能はトレハロースと変わらない活性を示したという。しかし大量生産ができず、現在は大量生産可能なトレハロース別の類縁体を開発中とのこと。
さらに、トレハロースの神経変性疾患治療への可能性として、アルツハイマー病予防効果の実験を紹介。アルツハイマーモデルマウスを使った認知機能試験で、トレハロースの1ヶ月投与でY迷路試験と物体認識試験での成績が向上した。その作用機序として、トレハロースが消化管を通る際に飢餓シグナルを出すことで、βアミロイドなどのタンパク質が分解されるのではないかと考えられた。
ワシントン大学医学部のババク・ラザニ氏は、トレハロースの血管と代謝に対する作用を紹介。トレハロースはリソソームストレスに起因する転写因子TFEBの活性化を介してオートファジーを増強する。トレハロースは心血管・心血管代謝異常症の治療のための有望な物質であると考えるべきだと結論付けた。
●第2部「様々な分野で見えてきたトレハロースの可能性」
岡山一宮高校 理数科2年の生徒らは、トレハロースを用いた科学実験の様子を発表。
・電気泳動試験では、トレハロースは電気泳動には影響しない
・金属樹(銀樹)をみた試験では、トレハロース濃度が0.1~1.0%の場合は銀樹の析出が少なく、5.0%以上では銀樹の成長が促進されることが分かった。
・金属(亜鉛)メッキでは、トレハロース添加できれいにメッキができるが、中性洗剤の場合とは違うメカニズムであると考えられた。
神戸大学バイオシグナル総合研究センターの森垣憲一氏は、生体膜の研究におけるトレハロースの応用を紹介。生体分子や生体膜を固体基盤に塗布する際、微細な空間で特に問題になるのが乾燥であるが、トレハロースが保湿剤として大きな効果を発揮する。トレハロースを応用することで、高精度・高効率な活性評価も可能になったという。
千葉工業大学工学部の寺本直純氏は、トレハロースから作られる様々な構造のポリマーを紹介。トレハロースベースの熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂の作り方などを解説した。
農研機構 生物機能利用研究部門の黄川田隆洋氏は、酵素の長期保存のためにトレハロースを応用した乾燥保存についての可能性を探った。長期乾燥しても蘇生するネムリユスリカから作出した培養細胞(Pv11)は乾燥耐性をもつ。乾燥に弱い酵素(ルシフェラーゼ)をPv11細胞に導入したところ、ルシフェラーゼを発現する細胞を樹立。これをトレハロース溶液に浸して脱水させてガラス化させることで、1年後においても細胞の組成とルシフェラーゼ活性が確認できたという。トレハロース処理をしたPv11細胞は、細胞内に発現させた外来性タンパク質を、機能性を維持したまま乾燥状態で保存し続けることが示された。