林原が主催する「第23回トレハロースシンポジウム」が、11月7日に都内で開催された。
第1部「分子を支える」、第2部「トレハロースを食す」と題し、研究者・識者の講演が行われた。
■トレハロースが制御性T細胞を誘導しT1Dの発症を抑制
国立感染症研究所 寄生動物部の下川周子氏は、寄生虫感染の減少とアレルギー・自己免疫疾患の増加を関係づける「衛生仮説」を解説後、腸管寄生蠕虫と一型糖尿病(T1D)の発症抑制機構についての最新研究を紹介した。
T1Dモデルマウスに腸管寄生蠕虫(H. polygyrus)を感染させると、β細胞が破壊されずインスリンの産生が維持され、血糖値が上昇しなかった。免疫細胞の網羅的解析によりH. polygyrusの感染で増加していたCD8TregがT1Dの発症を抑制していることを突き止めた。さらに、マウスの代謝産物をGC/MSにて調べたところ、H. polygyrus感染マウスの小腸内にはトレハロースが最も増加していた。実際にトレハロースをマウスに投与すると、CD8Tregが誘導されて寄生虫が存在しなくてもT1Dの発症が抑制されたという。
H. polygyrusは腸内細菌叢を変化させることが多数報告されている。腸内細菌を調べたところ、T1Dの発症抑制に関与するCD8Tregの誘導にはRuminococcusが重要であることが示唆されている。
■マーク H. ウィルコックス教授の研究
―トレハロースとClostridium difficile流行株の感染拡大とは関連性がないと結論
トレハロースがClostridium difficile流行株の出現や感染拡大に関わっているという論文が出された。ウィルコックス教授は4つの根拠に基づいて、それが真実でないことを検証し、シンポジウムで詳しく解説した。
トレハロース代謝変異はヒトへの感染を引き起こす複数の遺伝的多様性のあるC.difficile clade/遺伝子型間で広く存在しており、トレハロース代謝変異のみがC.difficileリボタイプ027・078の強毒化・流行性の拡大に起因したのではなかった。また、天然から摂取されるトレハロース量は年間100g/人ほどであるのに対し、工業生産されたトレハロースの摂取量は、9g未満/人(2007~2012)であった。C.difficile感染のgut modelにおいてトレハロース添加がリボタイプ027の病原性を高めることはなかった――など。
シンポジウムの概要に関してはこちらをご参考ください。
https://www.hayashibara.co.jp/data/3023/news_tp/