(一社)希少糖普及協会は、1月16日(木)に都内で希少糖セミナー「希少糖の研究の最新情報2019」を開催した。希少糖のなかでも特に注目されているD-プシコース(D-アルロースとも言う)についての研究の進展、最新情報、希少糖含有シロップの機能性表示食品受理などの話題が発表された。
●D-アルロースによる内分泌・神経系の制御、メタボ改善と医療応用展望
関西電力医学研究所 統合生理学研究センター長・神戸大学客員教授 矢田俊彦氏
食べる量を減らせば肥満症はなおる。ただ、カロリー制限した食事では満足度が落ちてリバウンドしやすいし、肥満薬を使えるのは日本ではBMI35以上に限られている。生活習慣病を改善するには、最大の生活習慣である「食事」つまり「食品成分からのアプローチ」が有効だと考える。そこで役立つのがD-アルロース(D-プシコース)。
希少糖の一つであるD-アルロース(D-プシコース)は、甘味度が70、エネルギーは0kcal/g。消化管から出るホルモンであるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の分泌を促進させることにより、摂食抑制、インスリン分泌量アップ、耐糖能向上などの作用により糖尿病改善が期待できる。D-アルロースは経口摂取によるGLP-1リリーサーとして意義があると考えられた。
砂糖の過剰摂取が糖尿病や肥満症の原因とされるなか、料理や菓子に使う砂糖をD-アルロースにかえることで、より良い食事療法が可能となる。D-アルロースを5%含んだ希少糖含有シロップ(RSS)を使った臨床試験でも、RSSを30g摂取することで体脂肪・体重の低減効果が確認されている。RSSは既にスイーツへの応用なども広がっている。
●世界の希少糖研究最新情報~抗酸化・小胞体ストレス改善効果等~
香川大学副学長・国際希少糖研究教育機構教授 徳田雅明氏
糖尿病と肥満は世界共通の問題で、WHOは1日の摂取カロリーにおける砂糖の割合を5%(25g)未満にすると指針を発表している。日本人でも1日摂取量は50gであり、すぐに減らせるような量ではない。そこで、砂糖に似た甘味を持ちながらカロリーゼロのD-プシコースを使うことを提案する。カロリーゼロに加え、唾液中のアミラーゼなどの酵素を阻害し糖質分解を抑制する機能を持つため、小腸での糖の吸収が抑制される。
希少糖は世界展開を進めており、ブルネイ、タイ・チェンマイ、フロリダで共同研究を行っている。各国の人を対象に行ったD-プシコース摂取による血糖値上昇抑制試験では、いずれの場合も効果があることが判明した。ブルネイは国民の60%が肥満・太り気味で、特に子供に栄養教育をする方向で広めようとしている。
フロリダ大学とはD-プシコースの小胞体ストレス低減作用に関する研究を行っている。小胞体は細胞内にあるタンパク質を作るための機関で、ここで作られたタンパク質が正しく折りたたまれることで正常に作用する。正常に折りたたまれないタンパク質も発生し、通常は修復や分解されるが、失敗品が増えて蓄積していくと細胞に悪影響(ストレス)を及ぼすことになる。この小胞体ストレスにより細胞死が起こった場合、糖尿病や動脈硬化など様々な疾患を引き起こすことにつながる。
この循環をD-プシコースが断つ可能性がることが分かったという。小胞体ストレス関連タンパク質の活性化をみた試験では、D-プシコースだけでなく、D-アロースやD-ソルボ―ス、D-タガトースが関連タンパク質の活性化を抑制していることが分かった。希少糖が小胞体ストレスを改善すると考えられた。
なお米国ではFDAの指針として、D-アルロースは栄養表示における糖類(Total Sugars)から除外されたことで、「糖類ゼロ」「添加糖ゼロ」「カロリーゼロ」の表示が可能とされた(ただしカロリー値は0.4kcal/g)。
●希少糖事業の最新情報~希少糖含有シロップの機能性表示食品としての提案~
松谷化学工業(株)研究所長 勝田康夫氏
希少糖含有シロップは砂糖の吸収を抑制することが調べられており、砂糖と置き換えて摂取することで砂糖のみの場合と比べて摂取後の血糖値の上昇が抑えられることが分かっている。
希少糖含有シロップ「レアシュガースウィート」は砂糖の吸収を抑える機能性表示食品として受理されている(E202)。松谷化学工業では研究レビューを作成し、食品企業に対して希少糖含有シロップを使った機能性表示食品の開発を提案している。スイーツや飲料において砂糖の一部を置き換えた場合の処方なども用意している。
同社はイングレディオン社とともにメキシコにD-プシコース専用工場を竣工しており、本年より「ASTRAEA(アストレア)」ブランドで世界展開していく予定。
※D-プシコース(D-Psicose)は英語名でD-アルロース(D-Allulose)といい、日本では両方の言い方が使われていますが、同じものです(希少糖の別の一つ、D-アロースとは違います)