DHA・EPA協議会、(一財)日本水産油脂協会が主催する「第25回公開講演会 生体ではたらくDHA・EPA-筋肉・腎臓・脳」が16日に都内会場およびZoom配信で開催された。
第25回公開講演会 生体ではたらくDHA・EPA-筋肉・腎臓・脳
はじめに、DHA・EPA協議会副会長 中楯雅生氏が挨拶。「DHA・EPAが健康寿命延伸に寄与しているのは間違いない。未利用魚の開発や養殖など、DHA・EPAの原料ソースの開発も必要となるだろう。DHA・EPAの摂取の必要性を訴え、広めていかなければならない」と、抱負を語った。その後、3名の講師による講演が行われた。
■脂質解析から紐解く骨格筋肥大のメカニズム解析
日本大学 生物資源科学部 海洋生物学科 准教授 井上菜穂子氏
骨格筋に存在する脂質が筋の機能に重要な役割を担っていると考えられ、とくに蓄積した脂質の質が筋機能に重要な影響をもたらすことが示されている。脂質は解析しにくいが、最近は、脂質の局在解析に重要な手法となる「質量分析イメージング」解析が開発されたことで、研究が進んだ。
質量分析イメージング解析により筋肉について解析した結果、速筋線維・遅筋線維は異なる細胞膜脂質によって構成されていることが明らかとなった。本解析法を用いることで、養殖の鯛と天然の鯛の肉質の違いも評価でき、DHA含有リン脂質の可視化も可能となった。
■慢性腎不全に対する多価不飽和脂肪酸の抑制効果
城西大学 薬学部 薬科学科 准教授 片倉賢紀氏
慢性腎不全は治癒が難しい疾患で、予防や進行の抑制が大切になる。慢性腎不全に対する多価不飽和脂肪酸の効果について、動物試験の結果を紹介しながらその可能性について言及した。
腎不全処置をしたラットにDHAなどの脂肪酸を摂取させて各部位の状況を観察したところ、DHAの摂取により腎臓の繊維化の抑制がみられた。インドールが肝臓で代謝されて合成されるインドキシル硫酸は腎機能障害につながる物質とされるが、DHAの摂取により腎臓中のインドキシル硫酸濃度の低下もみられた。さらに、慢性腎不全は合併症を引き起こしやすいのも問題であるが、DHAにより慢性腎不全に伴う網膜機能の抑制、心臓の繊維化の抑制、認知機能低下の抑制などが確認された。DHA・EPAは脂質異常症を改善することも調べられている。
■地域住民におけるDHA・EPA、アラキドン酸摂取量と認知機能の関連
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 研究所
老年学・社会科学研究センター 老化疫学研究部 部長 大塚 礼氏
国立長寿医療研究センターが行っている老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)の研究成果を紹介。同じ人を長期にわたり調査して、老化の過程や認知症、骨粗鬆症などの発症の要因を明らかにして予防法を見つけるという研究で、調査は1997年から開始され現在は第10次調査が行われている。
DHAやEPAの摂取が認知機能低下リスクを抑制することが、DHA・EPA摂取量と血清濃度の関連から判明している。年齢を重ねると脳の容積は減少していくが、アラキドン酸(ARA)の摂取量が多いほど脳容積の萎縮が抑制された。健康長寿を目指すには、DHA・EPAの摂取量の減少を避けるために魚を週に1~2回以上摂取し、同様にARAのために動物性食品を適量摂取する必要があると考えられた。