生命の設計図“ゲノム”を書き換える技術を利用した「ゲノム編集食品」が10月1日に解禁された。厚労省や消費庁では従来の品種改良と同等とみなし、「食品表示は義務化せず」との方針を示している。一方、消費者からは健康への影響を不安視する声も。日本消費者連盟は「安全性は確認されていない」と主張する。安全性審査はなぜ義務化されなかったのか?開発者、消費者、ルール策定者それぞれの視点からゲノム編集食品の実像に迫った。
「肉厚真鯛」「血圧を下げるトマト」「収穫量の多いイネ」など―― 高い栄養価や収量の増加、低価格化を実現するゲノム編集食品の開発が相次いでいる。「通常の真鯛と比べて1.2倍の筋肉量に増える。美味しさは変わらないが食感は少し柔らかくなる」。
■肉厚真鯛開発者である京都大学大学院助教の木下政人氏はこう説明する
「2014年から開発をスタートした。ミオスタチン遺伝子の1ヵ箇所を切断する養殖によって、2016年に肉厚真鯛の作製に成功した」という。肉厚真鯛に成長するまで、「約1 年半の飼育期間が必要で、通常の真鯛では(時期に違いがあるものの)2 年弱の飼育期間が必要」という。
成長速度が格段に速いことも特徴のようだ。同氏は「表示の義務はないが、ゲノム編集技術を活用したことを明確にしていきたい」としている。
■日本消費者連盟事務局長の纐纈美千世氏に取材してみたところ
「ゲノム編集食品の安全性は確認されていない」と主張する。食卓に流通させることに反対の立場だ。「反対署名は8 万8,552筆集まった」とし、2 次署名も現在準備中という。ゲノム編集について、「消費者はまだよく知らない。遺伝子組み換え食品を知る人でさえ理解していない」とみる。
流通を急ぐ政府の方針に問題があることに言及し、「集会では政府の拙速なやり方に対する怒りが非常に大きいことを感じた」と語る。「政府は“切っただけ”という言い方をするが、自然のやり方ではない」と警鐘を鳴らしている。
■なぜ表示は義務化されなかったのか
販売ルール策定に関わった明治大学教授の中島春紫氏によれば、「ゲノム編集と品種改良のリスクは同じである」と説明する。「品種改良は、偶然に起こったDNAの変化で生じた都合の良い性質を獲得し、辛抱強く選出したものである。ゲノム編集では、狙った遺伝子を変化(欠失など)させることで都合の良い性質を獲得し、選抜すること」と述べ、「ゲノム編集食品は自分の遺伝子をもっているだけ。従来型の品種改良でつくられた食品と区別することは原則的に不可能」としている。
さらに、「ゲノム編集であっても表示の信頼性を担保する技術がない」とも。つまり、「通常の品種改良と言い張ればそれまでである」という。消費者の懸念のひとつであるオフターゲット(標的外の部位を切断)については、「通常の品種改良でも数多く起きている。
ゲノム編集によってオフターゲットの確立が上がる事例も報告されていない」とし、「本当にオフターゲットが心配ならば、通常の品種改良で得られた食品も食べることができない」と指摘した。テクノロジーによる食の技術革新「フードテック」をめぐる動きも慌ただしさを増している。この新たな潮流を受けて、改めて“食”の在り方が問われている。
本記事は「健康産業新聞 1678号」に掲載。「健康産業新聞」(月2回発行/1号あたりの平均紙面数は約50頁)定期購読のお申し込みはこちら
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