奈良時代に日本に伝来して以降、皮膚治療の民間薬として用いられてきた馬油。5年程前の中国人など外国人観光客やソーシャルバイヤーによる爆買は終息、さらに新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要が激減する中、メーカー各社では、国内消費者をターゲットにした戦略を進める。なかでも近年は若年女性や幼児を持つ母親層が馬油の新規ユーザーに成長。メーカー各社でも新規ユーザー向けのパッケージデザインや処方開発も進めており、製品のバリエーションは拡大している。インバウンド依存から馬油市場は新たなフェーズへ移行している。
■新型コロナウイルスの影響で、インバウンドに打撃
馬の油(馬油)は、伝統的な化粧品成分として、100%製品からスキンクリーム、ローション、シャンプー・トリートメントなど、広く利用されている素材。日本には奈良時代に中国から伝来し、長い間、火傷、切り傷、アカギレなど皮膚治療の民間薬として用いられてきた歴史を持つ。馬の油の脂肪酸組成はヒトの皮下脂質に近く、皮膚への浸透性に優れているのが特長。不飽和脂肪酸の含有量が59~65%と高く、n -3 系脂肪酸とn -6 系脂肪酸をバランス良く含む。さらにメーカー各社が使用部位や搾油方法など、独自のこだわりを持って製造しており、一口に馬油といっても、それぞれに特色のある製品を生み出している。馬油の主要メーカーは、基原料となる馬脂や精製馬油を販売する千興ファームをはじめ、「ソンバーユ」シリーズの薬師堂、化粧品受託メーカーとしても知られるホウリン、馬のたてがみ下部の「こうね®」にこだわった化粧品を製造販売するメイン、熊本の老舗メーカー肌美和、馬油化粧品「リシャン」シリーズを展開するアイスタイル、スキンケアからヘアケアまでの幅広い馬油化粧品を揃える日本食品―― など。市場を見ると、5 年ほど前に起こった中国人を中心とした外国人観光客やソーシャルバイヤーによる爆買は既に終息しているものの、観光客個々の購買は続いており、越境ECや海外輸出は継続している。とはいえ、爆買に沸いた時期と比較すると、市場は全体的に縮小傾向にある。さらに、昨年末からの新型コロナウイルスの蔓延で、今年に入り外国人観光客が激減、市場はアゲインストの風に晒されている。実際、今回の取材およびアンケート調査でも、回答のあった販売メーカーからは、外国人観光客への販売、海外輸出が軒並み減少していることがうかがえ、多くの企業では今期の減収を予想する厳しい結果となっている。
■若年女性層の開拓など、国内市場に新たな動き
一方で、国内市場では新たな動きも。馬油のバブル期に店頭での露出をはじめ、メディアで馬油製品が取り上げられる機会が増えたことで、国内消費者の馬油に対する認知度は大きく向上。その結果、従来は中高年が中心だった購買層が、若年層にまで広がりを見せており、多くのメーカーも、「20~30代の若い女性の間に馬油ファンが増えている」と語る。馬油100%のクリームや石鹸などは赤ちゃんの肌ケアに用いられるケースも見られる。最近では、若い女性や幼児を持つ母親のさらなるニーズを獲得するため、各社パッケージデザインや処方を含め、ターゲットを意識した製品開発を推進、バリエーションにも広がりが見られる。あるメーカーの担当者は、「国内の新規OEM案件が増えている」とコメント、国内市場の再興に兆しも見られる。もともと伝承薬的に使用されてきただけに、使ってみれば体感は十分得られる優れた商品力を持っている馬油。近年のインバウンド依存の市場から、国内新規需要を掴み育てる新たなフェーズへの移行が見られる。
本記事の続きは「健康産業新聞1690号」に掲載。「健康産業新聞」(月2回発行/1号あたりの平均紙面数は約50頁)定期購読のお申込みはこちら
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