NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)はエイジングケア分野で近年、急速に研究が進む素材で、「若返りビタミン」として国内外で大きな注目を集めている。厚生労働省は3月31日、NMNを新たに「非医薬品リスト」に追加。CoQ10、L-カルニチンのように、規制緩和後に人気に火が付いた前例もあり、NMN市場の形成に期待が膨らんでいる。NMNを取扱う原料サプライヤーも増加しており、Eコマースを中心にサプリ、化粧品の上市の動きが広がっている。
■抗老化研究が進展
NMNは、アボカド、トマトなどに含まれる物質。体内での合成は、ビタミンB3、ニコチンアミドを材料とする。NMNは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の生合成前駆体であり、最新研究では、細胞内のNAD+の産生を促進することで長寿遺伝子群(サーチュイン遺伝子)、ミトコンドリアの活性に繋がることが確認され、エイジングケア成分として一躍注目を集めた。
最新研究では、ワシントン大学医学部の今井眞一郎教授を中心とした研究チームが、NMNに顕著かつ広範囲な抗老化作用があり、血中循環中に存在するNAD合成系酵素「eNAMPT」が老化・寿命の正業に重要な役割を果たすことを確認している。また今年1 月、慶應義塾大学医学部と今井教授の共同研究にて、健常者への投与で安全性が報告されている。
アメリカや中国では、既に多くのNMNサプリメントが流通しており、「若返りの薬」と称され、セレブを中心に愛用者が増えている。中国では、越境ECを通じて市場が拡大しており、米国メーカー製のNMNサプリの売上が伸長。香港最大の長江実業グループ創設者・李嘉誠氏など大物実業家によるNMN関連企業への投資の動きも広がっている。
国内では、2015年1 月に放送されたNHKスペシャルにて、NMNのサーチュイン遺伝子の活性化作用が取り上げられ話題に。同番組では、サーチュイン遺伝子は100近い老化要因を抑え込む「司令塔」であり、NMNを摂取することで、細胞の分裂スピードを管理し、細胞の寿命を延ばすことで長寿を実現できると紹介した。実業家の堀江貴文氏がラジオ番組で「NMNサプリを愛用している」との発言もあり、エイジングケア成分として注目を集めた。
■3月、非医薬品リストに追加
厚労省は、今年3 月の食薬区分改正にてNMNとその前駆体ニコチンアミドリボシドクロライド(NR)を非医薬品リストに追加し、食品利用への期待が高まった。本紙が5 月に実施した健食加工・受託企業へのアンケート調査(有効回答有効回答86社)では、2020年下半期トレンド予想素材として11票を獲得、第3 位にランクインした。こうした中、新たにNMNの取り扱いを開始する原料サプライヤーも増加。本紙の取材では、「大手から中小企業まで採用実績が増えており、NMNに関する問合せがここ数カ月非常に多い」「エイジングケアサプリやコスメとしての引き合いが増加した」など前向きな声が聞かれた。
現在、NMNを配合したサプリメントは、Eコマースを中心に販売されている。高価格帯のハードカプセルのほか、レスベラトロール、酵素、冬虫夏草と組み合わせた1,000~2,000円台の粉末、顆粒品なども流通。昨年、帝人グループのNOMONが上市した『NADaltus』は、1ヵ月分15万円という超高額な価格設定が話題となったが、今年5 月には約6 割の大幅な値下げが行われた。
コスメでは、抗シワ・シミ、ニキビケアを目的とした化粧水、美容液、オールインワンゲルが流通。NMNのほか、ナイアシドアミド(ニコチン酸アミド)の利用も見られ、高いヒアルロン産生能が期待できる新規成分として注目されている。
■食品衛生法上の取扱いは未定
サプリメントとしての市場拡大に期待がかかるNMNだが、国内での取り扱いには慎重な姿勢をとる企業も見られる。非医薬品リストに追加された化学物質は食品添加物に該当する可能性があり、厚労省は、食品衛生法に基づき、食品素材、食品添加物のいずれかに該当するか検討を進めている。大手健食メーカー関係者からは、「食品としての判断が出る前に販売を開始するのは勇み足では」との意見も。今後の厚労省の判断を注視する必要がありそうだ。
また原料の品質・トレーサビリティを懸念する声もある。中国で製造された一部のNMNは、日本の食品規格に該当しない可能性が指摘されており、「原料の品質や安全性には不安が残る」「製造工程時に用いる抽出溶媒が日本の規格に適さない」との声も。原料サプライヤーでは、中国メーカーに対して、NSF、GRASなど品質保証認証の取得を求める動きが広がっており、台湾産や国産原料の確保を進める動きも。NMNを取り扱う際は、製造元が国内の法規制を順守し、品質・トレーサビリティの担保を徹底することが求められている。
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