国民の3人に2人が歯周病とされる中、近年の研究ではう蝕(虫歯)と歯周病の口腔2大疾患が、糖尿病や心疾患、がん、アルツハイマー型認知症など、全身疾患にも関与しているとの研究も報告されている。超高齢化社会にある日本では、加齢に伴う口腔の虚弱性「オーラルフレイル」対策も喫緊の課題だ。政府の「骨太の方針」では6月、健康寿命の延伸を実現する施策の1つとして「国民皆歯科検診」義務化の検討も始まった。さらに歯だけでなく、唾液の役割に注目した研究会も設立された。口腔領域の健康維持に関心が高まる中、オーラルヘルスケア市場が盛り上がりを見せている。
歯科医療、予防に大きく舵取りの方向
厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の令和2年調査によると、「う蝕(虫歯)」の総患者数は289万人、「歯肉炎および歯周疾患」は860.4万人、「その他の歯及び歯の支持組織の障害」は189.6万人となっている。
また同省が5年ごとに実施している「歯科疾患実態調査」の平成28年分によると、年代別の歯周病有病率は30〜60代にかけて高く、30代以上では3人に2人。歯周病はもはや国民病とも言える状況だ。
さらに近年の研究では、口腔の乱れが全身疾患にも繋がることが明らかとなっている。専門家の話では歯周病菌が血液に入り込み、全身を巡ることで糖尿病や動脈硬化、心筋梗塞をはじめ、アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβを増やすことも明らかにされているという。
最近では歯周病菌の一部が胃を通過して腸管に入り込み、腸管内の細菌叢を乱すことで、大腸がんの原因になること、がんの転移を促進すること、さらには食道がんや関節リウマチなどの病態とも関連しているとの研究データも出ているという。
加えて、超高齢化社会の日本では、加齢に伴う口腔機能の低下や食の偏りなどを含み、身体の衰えの1つを言う「オーラルフレイル」の問題も深刻だ。こうした中、健康寿命の延伸を掲げる政府は6 月、「骨太の方針」で全国民に毎年の歯科検診を義務付ける「国民皆歯科検診」の導入に向けた検討を始めることを明らかにした。
口腔内の健康を維持することで、全身疾患の予防や健康管理に繋げ、逼迫する医療費の抑制に歯止めを掛ける狙いもある。
一方、昨年11月には神奈川歯科大学副学長の槻木恵一教授が中心となり、唾液中のIgA抗体の役割などを研究し新たな産業に繋げることを目的に、「日本唾液ケア研究会」も設立された。
歯だけではなく、歯の周りの環境要因として唾液・唾液腺と全身の関連を追及する新たな歯科医療として「唾液腺健康医学」を提唱、唾液ケアの重要性を啓発している。
歯磨き粉など、関連商材の市場伸長
オーラルヘルスケアに役立つ商材の市場も盛り上がりを見せている。市場には歯磨き粉や歯ブラシ、デンタルフロス、舌クリーナー、洗口液―― など、様々な商材が流通している。なかでもコロナ禍では、口からのウイルスや細菌の侵入の予防やマスク常用に伴う口臭対策への関心が高まり、歯磨き粉や洗口液のニーズが伸長している。
厚生労働省の薬事工業生産動態統計によると、2021年の薬用歯みがき剤の国内出荷金額は前年比5.9 % 増の約1,600億8,638万円、口中清涼剤は同1.5%増の171億132万円となった。
また本紙が今年5 〜6 月に化粧品受託企業(有効回答112社)を対象に、今年上期の人気受注アイテムを聞いた調査でも、歯磨き粉と洗口液の回答を合わせると8位にランクイン。オーラルヘルスケア商材のニーズの高まりを反映する結果となっており…
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