現代人の約8割が慢性的な疲れを感じているとされ、いまや重要な健康課題となっている疲労。現在その対策として医学的にも統合的な研究が行われるなか、疲労対策と老化対策に着目した「抗疲労∞抗老化」啓発プロジェクトが発足した。設立したのは(一社)ウェルネス総合研究所(東京都渋谷区)。発足に伴い昨年12月12日に都内で発足セミナーを開催した。
同プロジェクトは、「炎症を抑えて疲れにくい体、老けない体を叶えること」をテーマに様々な情報を発信することを目的にしたもの。「多くの日本人が抱える悩みである疲労と老化をターゲットに、疲労研究の専門家やアンチエイジング医療・研究の専門家、薬理の研究者など、それぞれの専門分野から、疲労や老化対策に有効な研究成果や食品素材などの紹介を行っていく」としている。
日本リカバリー協会が発表した全国10万人を対象とした調査「リカバリー(休養・抗疲労)白書レポート」(日本リカバリー協会)によると、「疲れている人」 は約7,162万人にのぼり、成人の約8割が活力状態に戻らず、日々の生活を送っていることが報告されている。「抗疲労∞抗老化」啓発プロジェクト代表で日本疲労学会理事長の大阪市立大学名誉教授渡辺恭良氏は「疲労による経済損失は大きく、抗疲労・癒し市場の推計は14兆円規模と試算されるなど対策は喫緊の課題」と指摘。セミナーでは、老化のコアメカニズムとして「酸化」「糖化」「慢性炎症」「修復エネルギー低下」が挙げられると説明すると、特に疲労と老化は慢性炎症を共通要因として密接に絡み合う関係にあることを解説した。慢性炎症は、脳疲労やその他疾患の要因とされることが近年の研究でわかってきており、日常的な対策が重要とされる。渡辺氏は「水・食品・サプリをはじめ、住環境、医療など複合的な要素でよりパーソナライズされたソリューションを開発することで個別健康課題の最大化を目指す必要がある」とした。
セミナーでは、抗疲労作用を持つ食品素材として近年関心が寄せられるS-アリルシステイン(SAC)の研究成果も発表された。登壇したのはSAC研究を行っている日本大学薬学部薬理額学研究室教授の小菅康弘氏。「疲労や老化にSACがどのように影響を及ぼすか」というテーマで講演した。同氏はSACの優れた抗酸化作用について触れ、抗疲労や抗老化の要因とされる慢性炎症に対して有効な働きをし、疲労や老化を改善することが期待できると言及。すでに同素材を用いた機能性表示食品も受理されており、「今後も機能性表示食品をはじめとした商品開発が活発化していくことで、抗疲労素材の一つのトレンドになり得る」と話した。
同氏によると、SACの抗炎症作用については現在脳での検証も進んでいるといい、多発性硬化症モデルマウスやパーキンソンモデル細胞、神経炎症による記憶障害モデルマウスを対象にした試験で、IL-1βなどのインターロイキン、TNF-αなどの炎症性サイトカインの発現を抑制することが確認されているという。アルツハイマー病の発症・進行要因の一つとされるアミロイドβに対する有効性についても見出しており、「日常的に摂取できる食品という側面から、予防投与も可能」とし、脳機能の領域でも機能性食品として配合する素材としては非常に有能であることを紹介した。また、最新知見では「SACの疲労軽減・老化抑制効果のメカニズムとして、活性酸素除去能力と炎症性サイトカインの抑制をはじめとした抗炎症作用に加え、細胞内のCa2+シグナルの抑制がわかった。これら複数の多機能性は他の抗酸化物質や抗炎症物質にはみられないSAC特有のものである」と説明。特異的な抗炎症作用を持つSACについて、会場からは多くの質問が出るなど素材への期待感の大きさが窺えた。