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予防は医療、保健は健康の分野か・・・

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 「予防は医療の分野である」ー評価モデル事業での海外の状況報告でも、いとも簡単に、これを追認する説明がなされた。個人的には異論がある、「予防は医療でまかなえるのか」と。しかし、用語ができた背景を考えないと、議論は進まない。多くの人が、冒頭の主張を説明を省き、世界の常識の如く語り継ぐことで、芭蕉が自分の見たものを見よと教えているのに、故人の俳句の評価にとどまっているようなもので、健康・栄養問題でも本質議論抜きで混迷が深まっている。

 8月3日のポリフェノール学会での細谷憲政氏の 基調講演「栄養表示が栄養の取り組みを基本的に変えた」では、予防と医療の問題も取り上げられた。細谷氏は「医療と保健は国際的には、明確に分類されている。予防preventionは医療の一環であり、病気を想定し、その疾病の側面から、医薬品を用いたり、医療行為によって疾病の罹患を回避している」と。一方、「保健は、健康の側面から、栄養素、あるいは栄養素関連物質である医薬部外品、生薬、サプリメント(成品)を用いて、疾病リスクの低減、健康増進の実現をする」と。(第6回日本ポリフェノール学会年次大会,基調講演)。だとすれば、相対的な「保健の概念」 が広がっていない点に問題はあるのかもしれない。さらに、「予防は医療の一環だが、リスク低減は栄養の範囲である」と。個人的には「予防は医療の分野」と言われる違和感と同様に「リスク低減は栄養の分野」という点にも逆の違和感があり、質問をさせていただいた。早速、詳細なご説明を頂いた。そもそもは、薬物による病気の治療・予防から薬物対応(risk reduction)を経て,栄養的なリスク低減(nutritional risk reduction)へ移行したと。(表参照)


 かつて機能性食品を演題とする講演会で、同氏が機能性食品とは何か、と厳しく迫り、議論を展開されたことがある。学問論争の共通語である用語の整理をしないと、議論がとんでもない方向に迷走する、と細谷氏は主張された。なるほど、トクホや機能性の議論は、たいした論争もなくよって進化もなく、今日に至っており、その混迷は、政策の混迷にしっかりと反映されている。食事や栄養の問題とソビエトの崩壊、米国や世界の先進国が進める戦略的な栄養政策の本質、とりわけTPP議論が行われる今日、わが国の証明のない食育政策の貧困さなどについて同氏は、厳しく批判した。予防、リスク管理についても、リスクを同定し、評価し、管理するには具体的に何をどうするのか。何を指標にして取り組み実施していくのかと。
 消費者に舵取りを聞き、議論を進めていけるなら、学識者も専門家もいらないが、学者の役割ももう少し明確にし、政策議論のテーブルに上げないと、お粗末な政策が世界の科学者や政治家の物笑いの種になりかねない。馴れ合いやお茶を濁すような議論の先には混迷しか生まれない。一時間の講演を拝聴しながら、そのような不安を感じた人も多かったのではないだろうか。

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