医療に関する見方も少しずつ変化している。かつては先端医療などが主役だったが、ベストセラーとなった「大往生したけりゃ医療とかかわるな」(中村仁一著、幻冬舎)が、最近では話題になった。尊厳死問題を取り上げた映画「終の信託」も実話がベースと言われるが、これも話題になった。国の医療制度改革が一向に進まず、統合医療などの検討会の議論もお茶をにごす程度で何の期待ももてない中で、生活者の現実が政策の転換を催促する形で広がっている。
先のNHKドラマ「ドクターモンスター」も、医療の直面する課題を生活者の視点で問い直す上で、興味深かった。医療も行政も患者を甘やかしているーというようなポピュリズムと反対の主張も、ようやくつぶやかれるようになってきた。
議員も行政も一部の批判を恐れ、必要の是非や合理性はともかく、最高の医療をのべつまくなしに提供することにサインし、その請求書は国民にまわってきている。ドラマの中で、医療費を払わない患者を放置する問題が取り上げられたが、米国などでは医療費を支払えず捨てられる患者は多いし、これから日本の直面する問題でもある。
救急医療と高齢化社会の医療は、前者が何が何でも生命を救う医療であるのに対し、後者は尊厳を守るQOL向上のように、目的も手法も異なるのかもしれない。そうした隙間を埋めるために、統合医療はあるのだろうが、厚労省の統合医療や混合診療の検討会でも、極めてミクロ的な視点でしか議論が行われず、医師会は、代替医療は現代医療ほどに効くのかというような近視眼的な質問しか出来ないし、議論も先には進まない。MRIで老衰の診断をしているような違和感がある。かつて司法制度改革は、法曹界の手では出来ないと経産省の幹部から説明を受けたことがあるが、同じ理由で、医療制度改革も、医療関係者の手では利害が複雑に絡み過ぎ、これまた期待できないだろう。
ただ、近年高齢者人口が増加し、多くの高齢者がセルフメディケーションに関心を持ち、先の厚労省の中高年縦断調査「56~65才、ずっと健康5割」(日経新聞3・15夕刊)のように、健康や食事への関心の高い人が増え、元気な人が増えている印象がある。自分の健康は自分で守り、医療に頼らない自覚の高い生活者が誕生し、医師会を見捨てた時に、医療制度改革が出来あがるのかもしれない。予防や統合医療は生活者の側からアプローチしないと無理なのか。