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【主張】 「ハンナ・アーレント」を観ましたか

 昨年の話だが、中高年が殺到しているという映画「ハンナ・アーレント」の紹介記事(週刊現代)があり、友人の勧めもあって、日曜日に長い列にならび1 日掛かりで観てきた。
 話はナチスの親衛隊将校のアイヒマンの裁判と、それを傍聴し、記事を書いたユダヤ人哲学者ハンナ・アーレント(ハイデッガーの教え子でもあった)の話だ。彼女は、アイヒマンの供述「自発的に行ったことは何もない。善悪を問わず自分の意思はない。命令に従っただけだ」を引用し、悪人と言われる人が悪を生むのではなく、思考停止が悪を生むとの主張を展開し、常識的なナチス批判の論陣から抜けたことで、同胞のユダヤ人社会から大きな批判を浴びた。が、批判の嵐にも屈せず、学生への講義で、極悪人ではなくても思考停止が、(人類への挑戦である)狂気を助長すると語りかけ、その8 分間の演説に聴講生から大きな拍手で迎えられるという話だ。この話のもうひとつの警鐘は、アイヒマンに悪のレッテルを貼ることで、問題の本質を問う思考も停止してしまうということだ。
 実は思考停止と言うような問題は関心を持たないと日常的に起きている。送りつけ詐欺グループが、健康食品に目をつけ、高齢者の被害が多発しているが、健康食品の団体でこの対応に乗り出したという話はあまり聞かない。言葉狩りと言われた4・13事務連絡が厚労省監麻課から出された時も、企業の大きな反応をよそに業界団体は動かず、エグゼ会議が生まれた経緯がある。検討会や安全議論でもこれに似た動きや意見が横行している。サプリメントの販売上のトラブル件数(例えば送りつけ詐欺など)を健康食品の安全性の問題と混同し、危険だと主張する消費者団体、安全性が絶対条件と信じている関係者(「人間にとって成熟とは何か」曽野綾子著のニュージーランドの記述が参考になる)がいることが驚きである。取材する側も、思考停止状態にならぬよう、行動を戒めなくてはならないが、これまた日常の取材に埋没し、それ以外の問題では思考停止のリスクはある。
 それだけに、ハンナ・アーレントは、ごく普通の人間が犯す思考停止、物事を決めつける思考停止に警鐘を鳴らしたのだと。人は考え続けなければならないということか。

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