大豆イソフラボンなど研究成果が続々
先月20日から3日間、パシフィコ横浜で「第61回日本栄養改善学会学術総会」が開催された。
初日には、同学会総会会長の中村丁次氏が会長講演を行い、21世紀の実践栄養は他領域との連携調整が不可欠と強調した。
また「食品のもつ生体への作用は栄養素だけでは解決できない」と説明し、食品に含まれる機能性成分を用いた大規模ヒト試験が行われていることを紹介するなど、今後の進展に期待を寄せた。
会期中に行われた一般講演は約1,000題。ビタミン・ミネラル類、葉酸、グルコサミン、大豆イソフラボン、レスベラトロール、トコトリエノールなど、さまざまな食品素材が取り上げられた。
国民的な栄養問題の解決、幅広い領域における栄養改善に向けた研究成果のほか、ロコモ対策に関する報告も目立った。
「実践栄養は、他領域との連携調整が不可欠」(中村会長)
初日の20日は、同学会学術総会会長の中村丁次氏(神奈川県立保健福祉大学学長)が会長講演を行った。冒頭、栄養学の歴史を説明。実践栄養がそれぞれの時代が抱える保健、医療、福祉の課題を解決すべき基本的事項としての役割を担い、成果をあげてきたことを話した。一方で、「栄養が抱える全ての問題を解決できたわけでない。栄養問題は想像した以上に複雑化、多様化している」と言及。「実践栄養は、他分野、他領域、他職種との連携、調整により、深化と拡大を繰り返すことが必要」と集まった聴講者に呼びかけた。
同氏は、栄養素と機能性成分の話にふれ、「食品の生体への作用は栄養素だけでは解決できない。栄養素以外の機能性成分が多数存在するなか、多くの研究が進んでいる」と説明。大豆由来のイソフラボン、タマネギに含まれるケルセチン、柑橘類のβ-クリプトキサンチンなど、食品に含まれる機能性成分を用いたヒトを対象とした大規模研究が実施されている事例を紹介した。そのうえで、「栄養素と機能性成分の区別をどこで引くのか、1 つのテーマといえる」と言及。先日行われた全米栄養学会で、ある研究グループが提案した栄養素と機能性成分の分類について紹介した。同グループによると、栄養素は、①必須栄養素(生存、成長、健康に必須な成分)、②条件付き必須栄養素(ある非必須栄養素が、発達障害、遺伝的疾患あるいは静脈栄養のような病理学・生理学上の特異的条件下で必須になる栄養素)、③非必須栄養素(欠乏症のような健康障害を引き起こすことがなく、不可欠ではないが各種代謝を容易にする栄養素)と、3種類に分けることができるという。同氏は「②や③が日本で言われている機能性成分にあたる。私がこの分類を粋だと感じたのは、従来の概念ではないこと。機能性成分として区別せず、新たな作用をもった栄養素と定義している。そしてこれらを全てインクルーズする食事や食品に対してDiet Qualityを高める評価法の研究が始まっている」と話した。
特別講演では、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授の辻哲夫氏が「健康寿命と栄養」と題し講演。同氏は、急速に進む後期高齢者の急増などを説明した。健康長寿のための3 つの柱として「食(栄養・口腔機能)」に加え、「身体活動(運動・外出など)」「社会参加(就労・ボランティア活動)」が重要と強調。「栄養士も食以外の分野について、幅のある知識が必要になる」と述べた。このほか、千葉県柏市で実施している地域包括ケアシステムの確立を目指した「柏プロジェクトクト」の取り組み状況を説明した。