東京大学医学部附属病院の小児科医師である伊藤明子氏は2月4日、弊紙とのインタビューに応じ、普通の食事だけで最適な栄養摂取ができる人は少ない、との考えを示した。伊藤氏は、「国民健康栄養調査の結果からも、平均して10数種類ほどの成分が不足しており、忙しい現代人が食事だけで充足した栄養をとるのは難しい」としている。「身体と脳と精神の最適化のためにはサプリメントの活用も検討してもよいのでは」とも話した。
伊藤氏が担当する小児科においても、ビタミンDが不足している乳幼児が近年増加傾向にあるという。しかし、副作用を伴うビタミンD製剤は具体的な病気治療を目的としており、ビタミンD低下状態の改善には乳児用のサプリメント摂取を勧めることで、実際に効果も出ている。
伊藤氏は「日本の子供たちのデータで、ビタミンDをしっかりと体内でつくれている子と比べて、ビタミンDがない子のほうが明らかにインフルエンザに罹りやすいという研究結果がある」と指摘し、「このような例はたくさんある」という。また一見健康そうな場合でも、実際に血中のビタミンDを測定すると、「4 割の子が不足している」とする研究があるという。アメリカ小児科学会では、すべての赤ちゃんに、一日400 I UのビタミンDをサプリメンテーションするよう推奨する声明を出している。伊藤氏は、小児科医の最前線でも食事や栄養について助言を行っており、「小児期こそ、成長と発達に食事と栄養がとても大事」と話す。また母親が離乳食で悩むケースも多く、根拠をもとにしたお勧め離乳食についての情報も伝えている。例えば、離乳期に魚をたくさん食べた子たちと、食べなかった子たちでは、魚をたくさん食べた子のほうが、1 歳半の時点で I Q が違う(魚摂取群の方が高 I Q )、というデータもあるという。
ただし、栄養学の知識が十分でない人が自分の判断でサプリメントを乱用することは望ましくない。一方、医学部のカリキュラムで栄養学はわずかな扱いしかなく、医師がそのままサプリメント活用に十分な理解があるとは決して言えないのが現状だ。しかし、予防医学的観点からみれば、現に多くの人が抱える栄養不足をサプリメントや食生活の改善などで補うことによって、健康改善や増進ができる場合も多い。「対症療法の薬の使用だけを選択肢とするのではなく、食事や運動、栄養を併せてトータルに考える優しい医学的アプローチが欧米では広まりつつある」と伊藤氏は指摘している。
伊藤氏は、「抗酸化」「抗糖化」「適切なカロリー摂取」「塩分を控えめに」「ホールフード/オーガニック」の 5 つのキーワードに基づいた「調和食」という考え方も提案しており、2013年には具体的なレシピを紹介する著書「天然ヘルシー『調和食』レシピ」が出版されている。医師のほか、同時通訳者、二児の母の顔ももつ。
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