ランセット委員会が「認知症は生活習慣などで予防可能」との考えを示したことをきっかけに、中等教育の卒業の有無など、社会的な格差が健康の格差につながる「健康格差」が背景にあるのでは、との見方が出てきた。米国立老化研究所は、様々なコホート研究に対して研究助成金を出すことを明らかにしている。
認知症予防、介入、ケアに関するランセット国際委員会(ランセット委員会)は20日、ロンドンで開催されたアルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2017)で報告し、「認知症のリスクファクターのうち、約35%が生活習慣に起因するもの」であり、予防できる可能性があるとの考えを示した。
ランセット委員会は生活習慣に起因するリスクファクターとして、「中年期における難聴」や「中等教育を卒業していない」など9つを挙げている(下記表参照)。必ずしも老年期における要因だけでないことが注目され、健康格差にもつながる恐れがあることから、米国立老化研究所(NIA)は調査のための研究助成金を出すことを発表。アフリカ系アメリカ人が白人よりも約2倍、ヒスパニック系で約1.5倍、認知症になりやすいとも言われており、様々なコホート研究を進めることにより「環境的、社会文化的、行動学的および生物学的要因の新しい関係が分かるかもしれない」という。
中年期における難聴(9%)/中等教育を卒業していない(8%)/喫煙(5%)/うつ症状の早期治療をうけていない(4%)/身体を十分に動かしていない(3%)/社会的に孤立している(2%)/高血圧(2%)/肥満(1%)/Ⅱ型糖尿病(1%) ※円グラフの合計は35%
NIAの研究助成対象には、黒人/アフリカ系、ヒスパニック/ラテン系、アメリカンインディアン/アラスカンネイティブ、アジア系などといった民族間の健康格差が含まれる。
アルツハイマー病協会のCSO(最高科学責任者)であるマリア・カリージョ博士は、「(エビデンスに基づく介入は)アルツハイマー病などの認知症が世界レベルでもたらす人的および経済的コストに取り組むために極めて強力」としている。
ランセット委員会で筆頭著者となっているギル・リビングストン医学博士は、「公衆衛生的介入によって、予防できる可能性のあるすべての認知症を予防できるわけではなく、治療できるわけではないものの、発症を大きく遅らせることができるかもしれない」と指摘。同委員会によれば、認知症の発病を1年間遅らせることによって、世界の患者数は2050年に900万人減少させることができるという。
今回の報告では、データが十分でないとして栄養学的要因は含まれていないものの、アルツハイマー病協会では、地中海食などある特定の食生活がリスク低減につながる可能性があるとしている。同協会は、「10 Ways to Love Your Brain」と題して、脳機能を維持するため今すぐ始められる生活習慣を発表している。