東京工業大学の野島達也特任助教(現:中国・東南大学准教授)や同大彌田智一教授(現:同志社大学教授)らの研究グループが、卵白たんぱく質を利用して高強度ゲル材料の開発に成功した。ゆで卵の白身と比較して、150倍以上の圧縮強度がありながらも、重みを加えると素材の厚みは最大で17分の1の薄さになるほどの柔らかさを持つ。食品や医療用素材への応用が期待できるといい、野島氏は「卵の白身という誰もが知っている物質を出発として、その新たな価値を生み出した研究だ」としている。
記事は、健康産業速報1月12日号で配信。ウェブでは、野島氏のインタビューを掲載します。
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―研究の経緯
当初は卵の白身という誰もが知っているたんぱく質源に対して、たんぱく質凝縮化技術が応用できるのかという興味で研究を行った。その途中で、思いもよらぬ高強度ゲルの発見に至った。本研究成果は、これまでに研究したたんぱく質濃縮化技術(2016年12月26日JSTプレスリリース「混ぜるだけで迅速に水溶液中のたんぱく質凝縮に成功」)の応用によるもの。たんぱく質の解析が専門であるため、ゲルをどのように評価するか苦労したが、専門家の協力を得て研究をまとめることができた。
―開発した「卵白たんぱく質凝縮体ゲル」の特徴、食品開発への応用について
まず、このゲルを通常のゆで卵の白身よりも150倍「硬い」と理解するのは間違いだ。最大で17分の1にも柔らかく潰れるにも関わらず、成人が本気で潰しても破断されない。爪や歯を立てると流石に切れるが、亀裂も広がりにくい。半分か3分の1程度の圧縮には可逆的で、力を加えなくすると元の形に戻るが、破壊する間近まで変形させると、完全には元に戻らなくなる。身近な材料では、シリコンゴムに近い感じだ。いわゆるシゲルに分類される食品、ナタデココやこんにゃくなどとは違う。柔らかいので最初は簡単に潰れるが、最終的に噛みちぎろうとするときはコリっとした食感というのだろうか。新食感の食品開発も期待できるが、食品に利用するためには卵白たんぱく質の凝縮化に利用している界面活性剤を食用に適したものにする必要がある。
―医療用素材への応用について
本物質は、生体由来のタンパク質分解酵素で外側から分解される。よって、その厚みや性状によって分解時間をコントロールでき、一定期間後に吸収されるような医療用素材への応用できる可能性がある。一般的に化学的に合成された高強度ハイドロゲルの分野でも医療素材への応用は広く研究されており、例えば軟骨などの体の構造材料の代用品や細胞培養用素材としての応用が期待されている。我々のゲルもそのような応用ができれば良いと思う。カプセルなどへの応用も可能性があると思うが、そのような応用には当然ながら、毒性など生体適合性を様々に検討する必要がある。卵白たんぱく質でゲルで作成をしているため、当然ながらアレルギーや免疫の関係でこのままでは医療品には使えない。人体に適したたんぱく質を用いて、同様に高強度ゲルの作成ができたら良いと思う。
―今後の展開
本研究は、一般の人にも内容が分かりやすい研究でありながら、たんぱく質という物質の可能性を広げたという点で基礎研究、サイエンスとしての意義があると思う。今後の研究・実用化に関しては、それぞれの専門家と連携して進めたい。すでに日本で特許出願もしているので、産業界との共同研究も期待する。
本研究に関するプレスリリース:科学技術振興機構(JST)2018年1月10日「卵の白身から高強度ゲル材料の開発に成功」
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