2007 年生まれの半数以上が100 歳以上生きるという。いよいよ100 歳人生が現実味を帯びてきた。そのときライフサイクルはどう変化するのか。国が目指す「生涯現役社会」の道筋や、中小企業へも広がりを見せる「健康経営」への取り組みを経済産業省ヘルスケア産業課西川和見課長に聞いた。
ー生涯現役社会においての美容・健康のビジネスの可能性は?
成長戦略で健康長寿を一番の目標に掲げ「生涯現役社会」実現を目指した施策に取り組んでいます。目指すのは、高齢者が元気に活力を持って生きる社会です。高齢者が現役世代と同じように人前に出ていくときに、清潔で、綺麗でいたいという気持ちがとても大切です。ここにエステティックなどの美容サービスの出番があります。社会に出ていくこと、人と交わることで、会話が促進され、健康増進に良い影響を及ぼすことは間違いありません。
現役世代の職場での健康投資というと、すぐに思い浮かぶのは、肥満、メタボ、ワーカホリックといった典型的な中年男性の姿です。この層には、糖尿病を予防するために健康管理や、ダイエットについて様々な介入サービスや商品にニーズがあります。若い頃から働きながら健康を維持し予防をしていくことや、リタイアをして社会と尚関わりを持ち続けていくことは、自分だけでは難しいことですが、そこで職場や地域の力を借り、継続性を保てたらと考えております。
今後、特に、注力したいと考えているのは若い女性のための健康対策、つまり「女性の健康経営」なのです。女性は社会参加の中核をなす方々です。ところが、妊娠、出産などの大きなライフイベントがあって特有の悩みやトラブルを抱えています。それらに、職場がしっかりサポートし、サービスを整えていることが重要でしょう。立ち仕事の多い女性が抱える悩みや、職場や家庭環境に関わるメンタル面の悩みもあるでしょう。これらに対して、リラクゼーションやエステティックで心身をケアしキレイにすること。生き生きと健康で元気で職場に通えるサポートであること。女性の健康経営を推進する上で美容サービスの果たす役割は益々大きくなっていくでしょう。いまこの「女性の健康経営」の論点の洗い出しを始めています。
ーIT の活用のチャンスについて
これからも健康や美容を意識した普段使いができるウエアラブルの種類や製品は増加していきます。多くの消費者が元気なうちから活用し、沢山のアイテムの中から自分の目的に合ったものを選べるようになります。健康意識を高めていく上でも有効です。
他方で、専門家も評価する専門的なウエアラブル機器が求められていきます。今はまだ、精度やモニタリングやアラートや使い方に基準がありません。医師の指導を仰ぎながら運動や栄養療法に使う専門性の高い機器が必要とされ、治療の延長に使えるITアプリケーションがもっと開発され活用されていくでしょう。IT のモニタリング力と美容・健康サービスとを連動して、新しいサービスを作り上げることは日本がもっとも得意とするところですから。
信頼の医療、健康、食、そして、細やかで洗練されたサービスの日本。美容、健康の商材も人気ですし、今後の海外展開を考えたときに大きな可能性を持っています。日本で美容・健康体験をして、帰国後もその製品を使い続ける、また、自国で日本の製品を体験して本場の日本にやって来ることも充分あります。つまりアウトバウンドとインバウンドの両方が窓口となって結びついているのです。
ー今後の取り組み
現在、こうした期待の産業でありながら、正確に把握するデータがあまりにも不足しています。統計だけでなく、どんなサービスがあり、どう提供されているか、これらを正しく調査し整理した情報です。この機会に、エステティックやスパ、リラクゼーション等の公的保険外サービスについても「産業の組織化」を行い、それぞれの違いを明確にして、組織化して、統計をもとに、皆さんと一緒に新たなトレンドを作っていきたいと考えています。アジアの人々から見て、日本の健康や美容は魅力的な存在です。日本で生まれた広いサービスを日本国内外で海外の方にも体験いただくことも重要だと思います。
西川和見(にしかわ・かずみ)
1996年通商産業省(現経済産業省)に入省し、大臣官房、貿易局、通商政策局、中小企業庁等への勤務をしたのち、2009年大臣官房政策企画委員、2012年経済産業政策局政策
企画官、2013年JETROシンガポール産業調査員、2 0 1 6 年通商戦略室長を経て、2017年7月より現職。