各自治体などで備蓄された非常食は、賞味期間が切れると大量に廃棄されている。その理由は「誰も食べない」からだ。非常食ではなく「災害食」の普及を目指す日本災害食学会では、賞味期間の長さよりも、普段でもおいしく食べられることを重視している。同学会副会長で新潟大学客員教授の別府茂氏は、「もはや、『乾パンでなくてはならない』ということではない」と語る。また健康ビジネス協議会(新潟県)では、「要配慮者向け災害食」の認証制度立ち上げに向けた準備も進む。学会がすでに運用している日本災害食認証制度と、「要配慮者向け災害食」制度との関係を含めたお話をうかがった。
―健康ビジネス協議会が進める「要配慮者向け災害食」認証制度の準備はどの程度進んでいるのか?
国の特別用途食品などの表示制度とも絡む話なので、いままで調査・調整等を行ってきた。その結果、今の表示制度に抵触しなければ、特に問題ないとのことだったので、現在準備を進めている。年内には発表にこぎつけるのではないか、と考えている。
秋には魚沼会議というイベントもあり、タイミングとしては良い機会だと思う。生かさない手はないだろうし、目標としては会議で発表できれば一番望ましいだろう。
―「要配慮者向け災害食」と、学会がすでに運用する認証制度との兼ね合いは?
学会の認証制度は、主に製造面や品質面でしっかりと管理されているか、という点をみるもの。第三者認証によって、ちゃんとした企業の努力を評価することで、安心できる商品を流通させていくことが最初の狙い。
賞味期間についても、半年あればいい、ということにしている。非常食といえば、5年より7年、7年より10年、というように、長ければ長いほどよいという考え方がいままであったが、学会では「災害時に役に立たなければ意味がない」と考えている。
例えば、粉ミルク、カップめん、パックごはんなどの賞味期間は1年ないものがほとんど。しかしそれらの食品は、実際の災害時には役に立つわけで、備蓄に向かないという理由だけで非常食扱いされないのはおかしい。
一方で、要配慮者向けの配慮というのは、学会の認証制度では必須事項ではない。しかし、それをしっかりと明記しなければ、支援物資として届いたとしても、倉庫で止まってしまい、積極的に活用されないということがある。
実際そのような状況は熊本でも起きている。低たんぱくやアレルギーという要配慮者向けのものも、役立つということをどんどん言わないと、それを必要としている人に届かない。協議会が準備を進めている新しい認証制度は、そこをしっかりと表示で明記できるようにするためのものだ。
―現在、備蓄されている非常食が大量に廃棄処分されているが?
廃棄されるということは、誰も食べないからで、普通の食品であればクレームがつく話だ。それが非常食、というだけで、まずくてもいいというのはおかしな話だ。
当然、災害時には我慢しなければならないという常識があるが、それは家が倒壊したとか、津波で流されたとかで、用意していたものがこれしか残っていないから、我慢してみんなで分け合おう、という話だ。それを、備えるときから我慢を前提にするのは、「非常食とはこんなもの」というイメージが定着し定着してしまっているからだろう。
非常食を否定しているわけではないが、賞味期間が長いほど、限定された食品しか残らない、つまりそれを食べられる人も限られてくる。健康面での二次災害を起こしやすい要配慮者にとって、最初に避難所に運ばれてくるものがその人たちのものではない、という状況は望ましくない。
―学会の認証制度はすでに1年半ほど運用されているが、その現状は?
いままで非常食を作っていた会社がまずは登録を進めており、150品ぐらいに達していると思う。しっかりとした管理のもとで製造されていることを証明したいというニーズがまずある。ただ、賞味期間が半年という商品はまだなく、従来品がほとんどという状況だ。
常温で半年以上、というのは、実はほとんどの食品メーカーが災害食をつくれるということで、今後、賞味期間が1年とか2年とかの商品がでてくれば、もっと意識も変わってくると思う。
いままではライフライン(電気、ガス、水道)がなく、調理できない状況下での大災害専用食を用意しないといけない、という考え方だったが、いまは断水してもペットボトルの水がある。停電しても、太陽光発電や電気自動車のバッテリーもある。ガスに至っては、プロパンガスもカセットコンロもある。つまり、お湯さえあれば、いろんな食品が食べられるということだ。
いままでの備蓄は、普段食べないモノを大災害専用で準備するということだったが、これからは、普段も食べられるもので、災害時も食べられる工夫がしてあるもの、たとえば、カセットコンロが用意してあるとか、ペットボトルの水も用意してある、とかを組み合わせることによって食べられる準備がしてあれば、賞味期間に関係なく、普段食べているものが、災害時に役に立つ、ということになる。
今は技術が大きく進歩しており、非常食なら乾パンでなければならない、というような時代ではないと思う。